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柴崎友香「春の庭」を読んだ感想。春の日は、のったりのたりな物語【2014年下半期芥川賞】

Hang Out With Me

「春爛漫の間取り図小説」と解く。その心は…。

第151回芥川賞受賞作。柴崎友香「春の庭」(2014年下半期)

物凄く淡々としているけど、なぜか飽きずに読ませてしまう。

そう、なんというかぼーっと日向ぼっこしているような、

日曜日にお気に入りの部屋に引きこもってぼーっとベランダの向こうに揺れる

葉っぱをみているような、、。

 

そして、間取り図好きとか、住宅街散歩してさまようのが好きって人には特におススメ。

わいは、後者です。

 

この話には、キャラの薄い主人公「太郎」(名前からして薄いよな)

の他、漫画やイラスト書いてるっぽい、冴えない感じのサブカル女子の西さん(っていってもアラフォー)という、ちょっと色モノキャラも出てくるのですが、

一番のメインキャラクターはずばり

家!である。

 

  • 以下、ネタバレあり

 

「春の庭」あらすじと感想

太郎や西さんの住むアパート(築30年で取り壊しが決まってる)

の隣に大きな水色の、古い洋館がたってる。

屋根は三角で、庭には海棠やら梅が植わっていて、ややミスマッチな石灯籠も。

 

一階にはまず、玄関には大きな蜻蛉(とんぼ)模様のステンドグラス、25畳のリビング、白木のキッチン、風呂。

二階には六畳間の洋室が二つに、八畳の和室一つ、あとベランダ。

 

なんかこんな感じで、わりと詳しめに、それこそ正確な間取り図のように、逐一説明してくれるので、知らない家を内見しているかのような

面白さがありますな…。

他人の生活感覚を、自分の頭の中でも、なぞって楽しむんだな。

 

このお洒落な家には、やはり洒落乙なギョーカイ人が住みついてたようで、

二十年前、CMプランナー、牛島タロー(35才)と小劇団の女優、馬村かいこ(27才)、の夫婦がここでの暮らしを写真集にしていた。

 

その写真集タイトルが「春の庭」

 

かいこは、運動神経抜群だったからか、家の中で側転やらブリッジしてる。ショートカット。

タローは、長髪で、いつも「わざと」髪を無造作にくしゃくしゃさせてたり、何気なく振り返ったように写真に写ってたりと、気取り屋らしい。

かいこが、庭先で歯磨きしてる写真もあったりする。

 

で、この写真集に惚れてしまったのが、漫画家の西で、この家に近づきたいがために、隣のアパートに引っ越してきたという。

そして、水色の家の周囲をウロウロしては中の様子を伺おうとするなど怪しげなふるまいをする。

太郎は、牛島タローの、「いつでも見られてる自分意識してます!」みたいなキザなのが鼻について、そんなに写真集は気に入らないのだが、どっちかというと西の、家への愛着に、次第に応援のような気持ちが育まれていったようだ。

 

とうとう西は、げんざいそのうちに住んでいる家族連れの奥さんと親しくなって、その家の中に入ってお茶したり子供たちと遊んだりできるようになる。

そんな西がまだ見れてないのが、バスルームで、

 

とくに写真集で魅惑的なのがその風呂だった。

黄緑色のタイルがはりめぐらされている、柔らかな光に包まれた幻想的空間だったのだ。

んで西は、その家におよばれして食事してる時に起こったアクシデントで、

腕をざっくり切っちゃうのだが、これ幸いと、「傷を洗います!」とその風呂を借りて、

血を流しながらウットリする。

太郎には、写真集よりはチープに見えて拍子抜けだったのだが、

西の目には素敵ヴェールに包まれて五割増しくらいでビューチホーに見えてたらしい。

 

まー、怪我してまで見たくはないけど、

他人の家って、すごく魅惑的に見えてくるものだ、分かる分かる。

 

特に都市部の住宅街歩いてると、えらくいろんなスタイルの家が雑居していて、

ギリシャ神殿風、ハイジのおうち風、瓦屋根と木造の和風古民家、建売住宅、ぼろいアパート、団地、山小屋風、とか、それぞれ本当に独自の世界観を表現していて、

見てるとほっこりするし、

ああなんか自分の今の暮らしじゃない生活もあるんだな、自分が今、ここで自分の暮らし方してるのって偶然で、ほんとはどこでどんな生き方してても良かったんだなーーという、言語化すると、なんかそれに近い気分になってくる。

 

そうゆー感覚を久々に思い出した。

「春の庭」への個人的評価

柴崎友香さんを読んだのは初めてで、なんか名前が地味だし!とかいうえらく浅い理由で敬遠していたのだが、作風も確かに地味といえば地味だが(??)

文章は無駄がなく研ぎ澄まされていて、手練れの技!って感じで好感度高し、でしたわ。

インタビューによると、街歩きや写真集が好きみたいで、なるほど、描写には愛情があふれていたわけだ。

暗渠の上を歩いて、その下に、昔川だったときの落ち葉や死んだ動物が埋まっていった年月を想像したり、とっくり蜂のつくった小さな壺がサッシに置いてあったり、ミステリアスで物語秘めてそうな洋館が近所にあったりと、そういう日曜日のご近所の陽だまりのしあわせ、っていうのか、ぼーっとしてるだけで満たされる気分っていうのか、

物語が始まりそうで、始まらなくて、ただ暮らしだけがそこにあるんだけど・・・。

住居、というのは、他の人の生活=物語を想起させる、

わたしらの想像を、その中に引き寄せる、強いモチーフの一つだなあ。

 

そういう佳篇であった。

 

ランクを、微妙/面白い/素晴らスウィート

の三ランクに分けると、「面白い」にランクイン。

第151回芥川賞概要

2014年下半期芥川賞受賞。
柴崎友香 (40才)

「春の庭」 178枚

候補作は、

戌井昭人
「どろにやいと」

小林エリカ
「マダム・キュリーと朝食を」

羽田圭介
「メタモルフォシス」

横山悠太
「吾輩ハ猫ニナル」

でした。

選考委員は、小川 洋子・奥泉 光・川上 弘美・島田 雅彦
高樹 のぶ子・堀江 敏幸・宮本 輝・村上 龍・山田 詠美

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