めでたく、カズオ・イシグロがノーベル文学賞に選ばれました!「私を離さないで」などは映画化もされていて、ご存じの方も多いかもしれません。
イシグロ氏は、日系イギリス人。日本で生まれ、現在はイギリス国籍です。小さい頃からずっと英国で暮らしているので、日本語はあまりうまく喋れないそうです。
さて、日本では、日系人ということで、イギリスでは、英国人がノーベル賞!ということで、色々と報道が盛り上がっていますが、海外では皆どういうふうに反応しているんでしょうか??
調べてみました。
カズオ・イシグロ氏の経歴や生い立ち
1954年長崎県生まれ。(原爆が落とされた地でもある)
2017年現在、62歳。
海洋学者の父親がイギリス、サリー州の国立海洋学研究所で勤務することになって、五歳の時に家族と一緒に渡英した。
ケント大学で、英文学と哲学を学び、イースト・アングリア大学で、クリエイティブ・ライティングの修士号を獲得。マルコム・ブラッドリーとアンジェラ・カーターに師事
若い頃には、実は小説家よりもミュージシャンになりたかったようで、レコード会社にデモテープを送り付けていたという。今でもピアノやギターを趣味で演奏している。
修士の時に書いた小説が、1982年に出版された、「遠い山並みの光」である。これで王立文学協会賞を受賞し、新進気鋭の作家に。同年、イギリス国籍を取得。
1989年に35歳という若さで、イギリス最高峰の文学賞「ブッカー賞」を、「日の名残り」で獲得した。
1993年に、同作はアンソニー・ホプキンズ主演で映画化もされている。
カズオ・イシグロの作品一覧
- 1982年「遠い山並みの光」
- 1986年「浮世の画家」
- 1989年「日の名残り」
- 1995年「充たされざる者」
- 2000年「私たちが孤児だった頃」
- 2005年「私を離さないで」
- 2015年「忘れられた巨人」
大体、五年間隔ごとに、本が出ています。執筆ペースは結構ゆったりですね。
ノーベル賞受賞!その時、海外の反応は??
ノーベル賞のTwitterアカウントには、世界中から祝福のコメントが寄せられていました!!さて、どんなものがあったかピックアップしてみます!
「受賞して当然!「私を離さないで」は今まで僕が読んだ本全部の中でもベスト!友達や親戚に配ったよ。今でも、誰かにあげられるように、布教用の予備をいつも準備しているんだ。」
「凄い作家!でも何で、英語圏の作家が二年連続で??これはちょっと不公平。」
「超嬉しい!カズオの本大好き。特に、「遠い山並みの光」。おめでとう!」
「一番好きな作家の一人。今まで読んだ彼の本はすべて、私の内側に刻み込まれている。ノーベル賞にふさわしいわね。」
「他国に移民として移るということが、良いことであることのいい証拠だね。」
「色んな人種や背景、信条を持った作家で、イシグロより良い作家は他に幾らでもいるだろう。ノーベル賞はジョークだね。」
「カズオは、前人未踏の場所に到達できた作家さ。」
「えーー、村上春樹のがいいよ。」
「ワンダフル!」
「「私を離さないで」は僕が初めて、最後まで読み通すことのできた小説だ。すごい物語に引き込まれたし、美しい文章だったからね。」
「今年も女性には賞が与えられなかったの?」
「いい選択!」
「やっと!ついに、ノーベル賞が一番ふさわしい作家に与えられた!「充たされざるもの」が一番おすすめ!」
「イギリス人らしくない名前だから、イギリスのEU脱退支持者たちは、多分イシグロを日本に送還しようとするんじゃないかw」
「アフリカの作家が、また西洋至上主義のノーベルアカデミーによって、無視されてしまった。なんてこったい、これで十回目だ!」
「彼がイギリス人だろうとの日本人だろうと、作品は素晴らしいよ!」
「その前に、生きてるうちにミラン・クンデラにノーベル賞をやる時期なんじゃないの?サルマン・ラシュディもふさわしいけどね。」
「ヌグギ・ティオンゴが世間に認められるまでは、気が休まらないな~~。」
「ボブ・ディランにノーベル賞やるという倒錯的行為よりは、マシだわな~・」
「カミカズオ」 ※村上春樹とカズオイシグロを混ぜた冗談かと思われ。
「ノーベル賞にふさわしい作家だね。ここのとこの彼の作品は、読むと何か、同じ本を繰り返し繰り返し読んでるような気にさせられるんだけど、それでも、いっつも非常に優れた小説であることに変わりはないんだな」
「”私を離さないで”について、今までに読んだどの本よりも、何度も考えてしまう。思いめぐらすことがとっても多く含まれている本。今回は適切な選択だった」
「言わせてもらえば、アドニスの作品の方が、文学としては優れていたんじゃないかなあ、でも、村上春樹が受賞しなくて良かった・・」
「素晴らしいチョイスで、嬉しい。カズオイシグロの作品は、時の試練を超えて生き残ると思うわ」
「去年読んだ、忘れられた巨人は、僕の心を粉々に引き裂くほど痛切なものだった。”充たされざる者”も、あまり読まれてない作品だけど、もう何年も僕の中に、読んだ余韻が響いているよ」
「ナイスチョイス!特に、昨年の、訳わからんチョイス(歌手のボブディランが文学賞受賞した)があったから、猶更そう思うね」
カズオイシグロが何人かを巡って議論も!
A「おいコラ、カズオイシグロは、”英国人作家”じゃないだろう、彼は、英国在住の、日本人だぞ」
B「いや、カズオは英国籍を持っている。だから、日本にルーツを持つイギリス人ってことだ。正しい表記だろ」
A「ああ~ん?白人めが。彼は日本人さ。俺もアメリカ国籍を持っているけど、日本人って自覚してる。おととい来やがれ!」
C「違う!、カズオは自分のことを英国人だとみなしている。それにイギリス国籍だ。彼はイギリス人だ、このやろう」
D「今イギリスに住んでいる、南アジア系アメリカ人として言わせてもらえば、自分は自分でアイデンティティを選ばなきゃならなかった。カズオイシグロだってそうだ、判断するのはお前じゃないさ。お前こそ、自分では植民地主義者を軽蔑しているみたいだが、お前自身がそんな感じ。」
A「いいや、かれはアジア人だ!彼の小説を読めばそれは分かるさ!ノーベル賞事務局は、カズオイシグロの、アジア人性を、彼を「イギリス人」って呼ぶことで、抹消している。
何で分からないんだ、アジア人の顔立ちをして、アジア人の体つきをした彼が、今までの人生の中で西洋社会で味わってきた経験が、カズオの書く作品には反映されているんだよ」
Twitter上で、上のような議論(・・・というよりは単なる子供っぽい言い合い(;´・ω・)
が巻き起こっていました!
カズオイシグロのように二つの文化に育てられた、複雑な生い立ちの人の場合は、こういうふうに受賞時の反応も複雑になるんですねーー。
彼の小説の、最初の二作「遠い山並みの光」「浮世の画家」は、実は日本を舞台にししています。登場人物も、日本の名前を持っていたりする。
といっても、自分の頭の中の想像の場所としての日本を舞台にした、とカズオは言っていました。
そして、ブッカー賞受賞した「日の名残り」では、なんともめちゃくちゃイギリスっぽいモチーフを探求しているんです。
英国といえば、お茶文化。貴族が優雅に午後の紅茶を飲んでいるような伝統がありますね。そして貴族といえば、やっぱし、執事!
「日の名残り」は、年老いた執事の回想を、渋い筆致で淡々と描いた小説です。
同僚の給仕長の女性への恋心、自分を犠牲にして主人に仕える、執事魂・・・などなど。
これは、もしかしたら、自分がやっぱり日本にルーツを持っていて、英国は母国だけど、異郷でもあるために、あえてその異郷の文化にどっぷり突っ込んだという可能性はあります。
カズオイシグロのご両親は、家庭内では日本語で会話をしていたといいます。カズオも、お母様とは日本語で話すとか。なので、たぶん日本語も、かなり流暢なのではないでしょうか。ご本人も、家では両親が日本語で会話していて、その両親の目を通して世界を見ていたので、私の中には日本人的要素がある、と話しています。
けれど、5歳の時からずっとイギリス育ちで、奥様もイギリス人、英国籍は1982年に取得済み、ということからすると、イギリスの環境の中でずっと育てられ、成長してきた、イギリス人と言えるでしょう。
小説のスタイルも、日本文学の影響はほとんど受けていないとおっしゃっているようです。創作も、イギリスの大学で学んでいますからね。
そうなると、やっぱりカズオイシグロはイギリス人なのか日本人なのか、とバッサリ判断するのは難しいです。
むしろ、そのハイブリッド感がいい、というべきでしょうねー。日本人でもあるし、イギリス人でもある。どちらの文化の影響もある。
だから、個人的には、カズオが何人なのか、を議論するのは、無意味な気がします。
むしろ文化っていうのは、大昔から、色んな文化が混ざり合う中で、刺激を受けて新しいものとして発展してきたようなところがあるので、その王道ともいうべきかもしれません。
カズオイシグロの作品はエモい!?
しかし、ここでまた個人的意見をいわせてもらえば、「私を離さないで」と「日の名残り」を読んだ感触でいえば、カズオ・イシグロの作品は、超エモいと思います。
淡々と描かれてはいるのですが、感情があふれ出していて、特に悲しみがベースにあるところは、非常に、日本人っぽさを感じてしまうのですよねー。「悲しさ」って、古くから日本の感情の基調になってるではないですか。
むしろ、あの抑制された文章は、このエモーションが、あまり前面に出過ぎないような配慮なのでは、という気もするほど。理性的で論理的な文体っていうよりは、やっぱり感情が動かしていく文章っていう気もします。
(その点では、村上春樹の方が、理性的で欧米的なのか)
・・・とか言いつつ、小説の世界では、多少そういう傾向が見られるということはいえますが、こんなことを書いていると「日本人=感情」、「欧米人=理性」とかいう間違ったステレオタイプな主張にはまっちゃう気もしますので、やめといた方がいいかな。
一概には言えませんね。やはし。
とりあえず、カズオイシグロの作品は感傷的!エモーショナル!それは、彼が日本人なのか英国人なのかとは関係ない!彼独特の個性である!
ともかく、イギリスと日本という二つの国の文化の影響のもとに描かれた作品が、これだけ世界の人に愛されているのは、嬉しいことです。ミックス万歳!