お笑いとは、美しい世界を壊すこと、など独自のお笑い哲学が爆発していて読ませます。
愛書芸人の又吉が受賞で話題になった芥川賞。
★二つ付けましたが、実は1.5くらいです…。又吉の人生が滲み出すような、妙にいじらしい感じがあって、0.5点上げてます。
ピース又吉、町田康と対談してもいますが、お二人は顔が似てますね。どちらも、沖縄にルーツがあるんです。
目が大きくて眉が太く、彫りの深い男前ですね。
題名の「火花」ですが、これは「花火」のモチーフがまずあります。冒頭と最後は熱海の花火のシーン。また多分、笑いに賭ける男達の散らす熱い火花というようなイメージもあるのかもしれません。
「火花」のあらすじ
※ 以下、ネタバレあり。
主人公の若手芸人徳永(20歳くらいの設定)は、ある日花火大会でよっつほど年上の芸人。神谷に出会い、所属事務所に先輩がいなかったさみしさもあって、
ノリで弟子入りしてしまう。
その後、二人は吉祥寺界隈でよく、つるんで歩く。
二人の繰り広げる熱すぎる芸人トーク。
あと、この神谷っていうのが、何するか分からないような、キレてひどいことやらかすんじゃないかというような、どこか狂気を秘めた人物。
クレジットカードを「 魔法のカード」と呼び、借金をしては後輩におごったり、飲んだくれりしていて、当然、火の車になっていく。
また彼女と半分同棲しているのだが、自分がチャランポランだから、正式な彼氏として彼女を支えていくことは出来ないと思っているからか、よく分からんが「付き合ってはいない」ことにしている。
そうとう面倒くさい感じのキャラ。
たとえば、
井の頭公園で、太鼓を叩いているお兄さんを発見、お兄さんが太鼓を叩きやめると、「ちゃんと聞かせろや!」といきなり、絡みだす。
そしてお兄さんが太鼓を叩いてくれると「 太鼓の太鼓のお兄さん!赤い帽子のお兄さん!龍を呼ぶ太鼓!」などと、オリジナルのはちゃめちゃな歌をはりあげだすという…。
こういう、自分のコントロールが付かない、社会不適応な感じ、
芸人の世界には割といるのかねえーー。
ほんと、こんな兄ちゃんが公園にいたらドン引きしますわ・・。
主人公徳永は、素直であまり邪気のなさそーな好青年で、こんな神谷をずっと、師匠として慕っている。
神谷は神谷で、徳永がとても素直に自分の話を聞いてくれるので、ついつい徳永を誘い出しては、徹夜飲みなどに付きあわせてしまう。
神谷は、しかしなかなか売れっ子にはならない。
対照的に、徳永はテレビに出始めたりする。
テレビに徳永が出演しているのを二人が見るシーンなんか、ちょっと緊張感がある。
そのうち、神谷は行方不明になってしまう。
完全に借金で首が回らなくなってしまったのが原因。
それでもなんとかエンディングで二人は再会し、また花火を見る。
そして、まだ人生これからだ、というような余韻を残しつつ完結。
又吉のお笑い哲学がみどころ
ピース又吉って、割とハンサムだし、全体的になんかナヨナヨーってしたイメージがあったのだが、この小説を読んで、かなり男の世界ってゆーか、芸人魂が熱いことにびっくりした。
又吉のお笑い哲学、みたいなものが前半では、徳永と神谷二人の戦わせるお笑い論っていうところで、グイグイ前面に出ていて、
やはりほんまもんの芸人っていうのは、24時間お笑いのことを考えて過ごしてるんだなーと感心した。
けっこう、名言的な考え方もざくざく出てくる。
又吉は、受賞のインタビューで
「テンションあげて面白おかしく書いてる文章っていうのよりも、すごーく真面目に 淡々とした語り口で語っているんだけど、あとから振り返ると、こいつが一番狂っていた」っていうような文章を書きたい」というようなことを言っていた。
(これに当てはまるのは太宰治らしい)
これは彼のお笑い哲学にも関係しているのだろう。
それから、「美しい世界を壊すもの、それがお笑い」というテーゼ。が流れていた。
とこれだけいっても意味不明と思うので、もっと説明しますと、
神谷の彼女が、新しい男を作ったので、神谷が自分の荷物を彼女の部屋から撤収しにいかなければいけないシーンがある。
神谷は、裏切った彼女にも、悲痛な気持ちをこらえつつ、とても優しく声をかけていく。
そして部屋には新しい男が、鋭い眼光で座っていて、もしもの時があったら、徳永と神谷と「さし違える覚悟」のようなものを持っている。
はりつめた空気。そして、それぞれの人物の美しさがみなぎる場面でもある…。
が、ここで徳永のしたことは、必死で妄想を膨らませることであった…。
なぜかといえば、それが神谷からのリクエストで、「おれは、もうどうしようもこらえきれなくなったら、お前の股を見る!だから準備しとけ!」と・・・。
そしたら「なんで先輩のピンチの時に、こいつはエレクトしてんねん!」っておかしくなって笑って、気持ちに余裕が出るからっていう。
こんな感じで「真剣で美しい世界」を壊すのが「笑い」だという。
確かに、真剣で美しい世界、というものにしか生きていなかったら、人間、緊張しすぎになるし、変な美学に突っ走って、どんどん切羽詰っていく気がする・・・。
この真剣な世界の重さを、その重量を利用して、ホイとあらぬ方向に投げ飛ばす、妙技がお笑いにはあるのかもしれない。
しかし、そのためには、芸人は世界の重さをも知っていなければいけないのだろうか、とこれは私ピニャコの感想だ。
芸人の人って、なんとなーく、仁義の世界というか、一方ではすごい真面目で真剣で、情念に満ちたような世界を持っている人が多いのは、こういう事情なのかな。
(アンガールズとか、今は、芸風の違う人達もけっこういるけれど。。)
「火花」個人的評価
お笑いの世界のセミ・ドキュメンタリーのようなものとして面白かった。
やはり、 一つの世界をどっぷりと追究している人が、その道について語ると、濃厚で面白いものが書けるのだと思う。
ただ、又吉も受賞パーティでは「次回作は難しいでしょうね」と言われたらしい。
たしかに、今回で個人の人生経験を最大限活かした作品を書いているので、
そこから離れて想像力で書くってことは、また違うステップになるだろうと思う。
また、選考委員の村上龍も言っていたのは、話が長くて飽きてくる、ということ。
あと、小説として面白いのかというと微妙かもしれない。
確かに愛書家らしく、文章はきちんとしているのだけれど、まだ個性が確立された文章ではないような気もする。
個人的には 、お笑い哲学が、割と面白かった。
考えてみれば、ビートたけし、太田光、劇団ひとり等等、文章書く芸人って割りと多い。ネタも一種の文学だからか。
ちなみに、烏龍パークの橋本武志が、神谷のモデルではないかと囁かれていたらしいが、どうも違うようだ。ただ、売れない時期に一緒にたくさん時間を過ごしたのは本当らしい。
又吉は、現実の経験をもとに、頭の中の空想力も使ってストーリーを練り上げたのだろう。とすると、この先も小説を書いていける見込みもありそうだ。
とかいいつつ、「劇場」については辛口の感想書いてます(^^;