アメーバのように付きまとってくる旦那が怖いホラーチックなファンタジー。
2015年下半期芥川賞受賞作。
本谷有紀子。美人と評判だが、確かに可憐なルックスだ。(あ、写真の烏と一緒のお姉さんは関係ないモデルさんです念のため)
だが、このお方のプロフィールにまずビックリ。
高校だか中学のとき、女子ソフトバレー部にお試し入会したら、ボールをわざと狙って打ち込まれたという・・・。
「玉拾いの仕方が生意気」だったそうだ。
やだね~、そういう陰湿な先輩―後輩体質・・・。
わいだったら、たぶん、すっかり挫けて、またはあんな仲間に入るものか!と憤って、二度とそんな部活の敷居をまたがないだろうよ。これ普通。
でも、本谷さんは違って、反対に、絶対に負けるか、とこの恐怖の部活に入る。そして、態度を崩さない!
先輩20人くらいにトイレで詰め寄られても、絶対にひきさがらない。で、最後は先輩たちもあきらめて、逆に部長をまかされたという。
なんてガッツなんだろう・・・。
しかも、演出家としては厳しく、特に女子には「女のタフさを知っている」だけに強く指導していたみたい。ストレスで血尿や円形脱毛症になった人もいるとか。
恐るべし!! 力が有り余っているタイプの人なのかな・・・。
では、本題。
「異類婚姻譚」のあらすじ
ライトファンタジーでした、日常の不気味さを描いた。
たぶん、夫婦生活営んでいる人の方が共感できるだろう。
- 以下、ネタバレあり。
主人公の「サンちゃん」は、ある時自分の顔が旦那とそっくりになってしまってることに気付く・・・。
これは他人とずぶずぶ一体化していくことの恐怖と魅惑を描いている作品。
まず、受けるのが旦那の、驚くべきだらしなさ。
結婚してすぐに「オレは家では何も考えたくない男だ」「オレは一日三時間もテレビを見る男だ!」と宣言する。
そしてその通り、会社から帰ると、ひたすらソファで携帯ゲームしたり、テレビ見てたり、とにかくダラダラする。
そして、道で痰を吐く!(いつものことらしい)
連れ立ってた主人公が、かわりに怒った近所のおばちゃんに謝ることになり、そんな時も旦那はぼーっとあらぬ方向を見てる。
ぐぬぬ、こういうダメンズ割と多そうだよな・・・。
そして主人公が痰をティッシュでとってあげる。おばちゃんは
「あんた何もそこまで・・・・あんたのじゃないんだし」みたいにぼそっ。
(やや同情??)
でも主人公は、自分がそれを吐いたような感覚になってしまっていたのだ。
つまり、旦那と自分が何か融合してしまっているような・・・。
この辺りから話が面白くなってくる。
ときおり、旦那の顔のパーツがズレるようになってしまうのだ。
主人公の前ではあまりに気を抜いていて、「顔を作る」必要がないからなのか、目鼻が下がり、たまに口は顎の先まで移動したりする・・・。
これは、なんかみんな実感あるかも。
女子は特に、普段どこか公共の場に顔を出す時は「顔をつくって」ゆく。
化粧しないまでも、「気合」によって、顔は緊張感からハリが出るものだ。口角はあがり、目は多少パッチリし・・・ひきしまる。
でも休みの日で一日ゴロゴロしてると、あっというまに顔はゆるんでデロデロになる。まぶたは垂れ下がるし、なにかメリハリのない顔になる。
男性でも同じだろう。
会社でも、休み明けってみんな、さっき布団から出てきたような顔してるもん。
なので、本谷有紀子は、この感覚を誇張気味にファンタジックに表現していることになる。
んで、主人公が旦那に似ることを不気味がる一方、旦那はどうも、主人公と似たい・・・というよりはもっと強めに、融合したい、同一化したい!と思っているような節がある。
このアメーバみたいに主人公に絡んでくる妙な旦那は、ついに会社を休み始める。
そして、専業主婦である主人公になりかわったような行動をとり始める。
台所に立って、エプロンつけて、揚げ物を揚げるのである。
妻である主人公サンちゃんにはソファでテレビ見させて、ハイボール飲ませておいて、彼女のグラスが空いたらすぐさま継ぎ足す、という出来た女房ぶり。
で、会社に行かなくなってしまう。
「サンちゃんと一緒だと楽なんだよね~」とかいって、ずっと家でだべりはじめ、クリーニング屋さんやら商店街の八百屋にまで詳しくなりはじめ、ますます主婦化が進む。
しかも問題なのは、旦那が揚げ物ばかり食べさせることで、
主人公は胃もたれしてても、食べ始めると広がる旨さに止まらなくなって、いつも完食してしまう。
確かに、柚子胡椒味とかタレに色々工夫してて、読んでると食いたくはなる^^;
こういう二人のエピソードに、近所のキタエさんの飼う猫のエピソードが重なってくる。このサンショーという猫、いつからからキタエさんちじゅうに、おしっこしまくるようになってしまったのだ。玄関、布団の上、ところかまわず・・・。
もうどうにも手に負えず、キタエさんは猫を山に捨てる決心をする。
主人公サンちゃんが、車を運転して山に連れていってあげるのだ。
で、この猫と旦那はとうぜん、同じ存在としてだぶってきます、読んでると。
おしっこやら痰・揚げ物の油といった、何やらねとねとしたもので、こちらの体にまとわりつき、侵入してくる他者というもの。他人というもの。
主人公はそれにいいしれぬ不気味さを抱き続けていて、最後にはとうとう、なぜだかプリティーな芍薬の花に変身してしまった旦那を山に捨てる。
なんというか、これは、どっちかっていうとやっぱ、旦那がやたらと不気味だったのは、実はファンタジーワールドで、主人公サンちゃんが、他人とべったりして、なあなあに暮らすことが、凄くイヤで、その嫌悪感が妄想になったような感じがする。
家族なんて、割と「顔を溶かした」ぐだぐだな状態で日々一緒にいることが多いだろう。
それがとっても心休まるひとと、逆に気味悪くてサブイボ立っちゃう人がいると思う。
サンちゃんは、最後には、他人と融合状態はイヤ!ってなってしまったんだと思われる。
これも、やたら勇猛果敢に敵に立ち向かっていく、、ヒトに甘えるとは正反対だろう(?)作者のエピソードを知っているがゆえの読みなのか?
個人的評価
んで、面白かったかどうかと聞かれると、微妙。
確かに、ファンタジックな小噺(コバナシ)としては、面白いのだけど、
内容に特別深みがあるわけではなく・・・。
夫婦といえども他人。
夫という名の他人と、自分の間の日常的な違和感を、ユーモラスに表現してみましたっていう感じかなあ。
他人とぐだぐだ融合するときの、ぬるま湯的なだめになりそーな心地よさと、自分がなくなる不気味さと社会に戻れなくなる堕落感を、うまく表現してはいる。
でもそれ以上の何かは、個人的には、感じられなかったよーなー。
夫婦で読んで感想聞かせあったりしたら、互いの距離感に対する違いが出て面白いかもね。
他の芥川賞受賞作についても、こちらでレビューしております☆彡是非!