昨今、#ME TOOムーブメントや、それに触発される形で明らかになった詩織さんの事件などが世間を席捲していますが、こういう状況で、ある意味非常にタイムリーな(っていう言い方も下品ですが汗)小説でした。
あ、ちなみに「ファーストラブ」ではなくて「ラヴ」です。Vの発音にこだわりあり??
しかし、とにかく重い!非常に重たく、しかし話が面白いのでグイグイ読ませられるのですが、痴漢にあったことのない女性の方がむしろ少ない、この日本社会では、直視しておかないといけない問題かと思います。
性暴力のことだけではなく、家族の暗闇や孤独な子供たちの問題にも焦点が当たっていました。
臨床心理士を目指している方はもちろん、話題にされてしかるべき小説かと思います。そして良質な法廷劇や謎解きになっていて、むしろミステリの要素が濃くスリリングです!
「ファーストラヴ」の登場人物
- 真壁由紀
主人公。たぶん30代の臨床心理士。旦那と小4の息子と一緒に暮らしている。最近は売れていて、テレビにも出演することがある。自身も、家族関係は複雑。
父親が海外出張時に、少女買春していたことを大学生の時に知り、ショックを受ける。また、自分を性的な視線で父親から見られていたことも傷になっている。そして子供のような母親と会うのを避けてもいる。
- 我聞さん
由紀の旦那。写真家。大柄で彫が深く、いつも眼鏡をかけているが、外すと思いのほかハンサム。おおらかで優しい。
- 聖山環菜
アナウンサー志望の女子大生だったが、テレビ局の二次面接直後に、実の父親を包丁で刺して死なせてしまい、殺人の疑いで拘束されている。アナウンサー志望だけあって芸能人並みの美人だが、小さく細い印象を与える。
だが小さな頃から情緒不安定なところがあり、自傷を繰り返していた。
- 聖山那雄人
環菜の父親だった画家。事件で死亡している。しかし娘と血は繋がっていない。美しい妻(環菜の母親)を妻に持っていた。
- 辻さん
由紀と一緒に環菜についての本を出版すべく取材をしている。
- 庵野迦葉
我聞さんの義弟。幼い頃に実の母に捨てられて、叔母の家で育つ。
由紀とは大学が一緒で、互いに家庭環境が複雑だったこともあり意気投合。一時期は非常に親しかった。
色々な女性と付き合っては別れを繰り返している。
現在職業は、弁護士で、環菜の事件を担当することになり、彼女のルポを書こうとしている由紀に声をかけてくる。
「ファーストラヴ」あらすじ(ネタバレ有)
由紀は臨床心理士だが、出版社から、最近話題になった殺人についてのルポを書かないかという話がきた。
それは「美人女子大生」が父親を刺殺してしまった事件である。
この女子大生は「動機は見付けてください」と警察に言ったとして話題になっていた。
この事件を丁度担当することになった弁護士の迦葉から、協力を請われて、由紀は環菜と面接し、カウンセリングのような形で、この家族で何があったのかを突き止めようとする。
そこで明らかになってきたのは、環菜が父親に言われて小学生の時から父の絵画教室でモデルをしていたこと、すべて生徒である男性の視線にさらされていたこと、さらに父と血は繋がっていないために家族にも親戚にも冷遇され、それを紛らわすためか、寄って来る男性をまったく拒まなかったこと、などなどであった・・・。
話を聞くほどに、由紀は、彼女が父を殺そうとしたとは思えなくなってくる。
一方、臨床心理士になる遠因ともなっている、自分の過去のトラウマ的体験・・・父親が買春していたことや、それと関係して迦葉と巡り合い、彼の兄の写真展に行って、その写真家である現在の夫に出会ったことなど、主人公の過去についても語られていく・・・。
「あの子は昔から嘘をついてばかり」と環菜のことを評する母親は、なんと裁判でも検察側の証人をかって出る。
果たしてこの家族に何があったのか、そしてどこに真実があるのか・・・?
・・・という話です。
「ファーストラヴ」を読んだ感想
とにかく重い!!!
・・・こ、これッ!!精神的にすっげーーーヘビーですわよ!!!!
何しろ内容は、家庭内で無視される子ども、性的虐待、自傷行為・・・そういった話ですから・・・。
いやーマジで重い。ここ数年の直木賞作品の中では断トツの重さなんじゃないだろうか・・・・。
なので、読む時は選んだ方がいいかもしれません・・?
特に痴漢などにあったことある人は、それを思い出してしまう可能性はあると思います。
環菜が、いわゆる「いい子ちゃん病」な子なのも読んでて辛いです・・・。
親に無視されてあるいは周囲から冷遇されて育ったゆえに、相手に愛されよう、気に入られようとして、幼いうちから誰にでも振りまく「媚」を身に付けてしまった子なんです。確かにこういう子って実際現実にちょくちょく存在していて、辛いです・・。
男性に読んでほしい
やはり男性に読んで欲しくなってしまうかもしれない・・・。
傍目からしたら「ん?そんなに大したことないんじゃ?」とまかり通っていることが、どれだけひとのこころを傷付けるかが、マザマザと描かれています。
まず、環菜は、昔からモデルをやらされていました。
といってもヌードではなく、着衣です。
しかし、ここが微妙で、男性と女性の体つきを比べるためという口実で、いつも全裸の成人男性と背中と背中をくっつけるようにして、画学生(全員男性)の視線にさらされていたわけです。
しかも小中学生の時。自分で選んだわけでもなく。
これはうっかりすると「絵画教室だし、そういうもんでしょ」とか見過ごされてしまいそうで、傷になるかもしれない、見方によっては白、味方によっては真っ黒といえる、絶妙なケースを持ってきているなあ、と思います。
他にも、まだ小学生の環菜を恋人にしようとする男共が登場してきます。こういうのって結構存在しているんだろうなあ、と思います。
また父親からなんとも、ねっとり気持ち悪い視線を自分の身体に向けられる経験とか・・・。たぶん女性なら、一度は、男性から気持ち悪いべったりした視線を投げかけられたことはあるかと思います。
あの気持ち悪さ、男性にはなかなか理解してもらえないんですよねえ・・・。
救いはいい男、我聞!
ともかく重くて重くて、芥川賞を取った「送り火」も、残虐シーンが印象的な小説なんですが、「ファーストラヴ」の後では、もはや、あそこに出てきた暴力が子供だましの夢に思えてきますよ・・・。(いや、けっこう凄惨なんだけどそっちも(;^_^A)
そんな話のなか、主人公由紀の旦那、我聞はほんとう、いい旦那で癒しキャラです・・・。体が大きいんだけど優しくて、髪はふわふわしていて、色素薄くて、子供の面倒もちゃんと見てくれるし。癒しキャラ―・・・。
こんな旦那に憧れる・・・。
それだけでなくキャラクターの輪郭が、けっこうそれぞれ個性がクッキリと描かれていて、資格像が目に浮かんでくるようです。
島本理生さんのはデビュー作かデビュー後一作くらいしか読んだことなくて、正直それほどうまいと思っていなかったんですが、此の年月の間に、ものすごく力を付けられたんだな~と思いました。人物一人一人が魅力的にキャラ立ちしてるんです。
法廷劇のスリリングさもあり。
そして、クライマックスは法廷で行われます。最初は自分が殺したと言っていた環菜が、それを翻し、本当は殺意はなかった、というようになる。途中で発言を翻すのは裁判に不利になってしまうのですが、それでも彼女の思いを尊重しようと、殺意はなかったという方向で弁護側も進めることにします。
そして環菜自身も、証言台に立ち、語ります。アナウンサー志望だっただけあって、理路整然と話せるという、本来の能力を発揮します。この場面ではきっと、読者も応援したくなってしまうはず・・・。
検察とのやり取りなど、見事な法廷劇になっていました。きっと沢山取材されたんでしょうね・・・。
「ファーストラヴ」の感想まとめ
とにかく、予想以上に重かった・・!です!!
しかし予想以上にグイグイと人を引き付ける力に溢れた小説でした・・・。心理サスペンスや、社会問題に興味のある方はもちろん、ミステリや刑事ものの小説が好きな人にでも、幅広く楽しめるものになっていると思います。
そしてやはり、昨今の三―トュームーブメントの意義を後押ししているともいえると思います。なので、読む価値はとてもあります。
しかし、本当に非常に重いので、注意してください!!(個人的意見ですが)
最後に、一番ずしりと来た台詞はこれ。
「愛情が何か分かる? 私は尊重と尊敬と信頼だと思ってる」
あ、芥川賞作品についてはこちらの記事に書きました。
よろしかったら合わせてどうぞ。