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「銀河鉄道の父」門井慶喜の感想やあらすじ。読めば、宮澤賢治のイメージが変わるかも!【2017年下半期直木賞受賞】

 今回の芥川賞、直木賞は、なぜか偶然にも宮澤賢治に縁がある!「おらおらでひとりいぐも」は、もちろん賢治の詩から引用されたものだし、「銀河鉄道の父」など、もろに、宮澤賢治の父、政次郎の立場から、変わり者の息子、賢治を描いた作品になっている。

 息子としての賢治。

 今まで思い描いていた賢治とは違った賢治が見れるかも??

 父といえば、父親との確執が有名だが(宗教論争をしたとか・・)なので、

どこか、物分かりのよくない古いタイプの頑固おやじなイメージを持っている人も多いと思う。

 

 でもこれは、そんな頑固親父イメージを払拭してくれる話だった。

 そんなわけで、感想やあらすじを紹介します!

 

 

「銀河鉄道の父」の主な登場人物

  • 宮沢政次郎

 岩手県花巻で先代から営む質屋の主人。賢治の父親。尋常学校の成績はトップクラスだったが、父親から「質屋に学問はいらね」といわれ、進学はしなかった。

 情に厚い性質で、賢治を何かと甘やかしてしまう。浄土真宗に信仰があった。

 

  • 宮沢賢治

 言わずと知れた国民的作家。しかし生前は、中央文壇にはほとんど名を知られていなかった。「雨ニモ負ケズ」や「銀河鉄道の夜」は、きっと誰もが読んだことがあるか名前を知っているだろう。

 幼いころから病弱、鉱物などに興味を示していた。父に進学を許され、盛岡高等農学校まで卒業。家出して東京に行ったり、学校教師になったり、農民の苦難を知るためみずから土地を開墾したり、一途な性格である。生真面目で情熱的。

 妹のトシに対して恋愛にも近い感情を抱いている。

 

  • 宮沢トシ

 賢治の上の妹。学問優秀で、中学も主席卒業、東京の女学校(今でいう女子大)に通う。頭脳明晰で、時に父親の政次郎も言い負かしてしまう。気が強い。

 しかし結核にかかって夭折してしまう。

 

  • 宮沢清六

 賢治の弟。兄を慕って、本の売り込みや、イベント準備など色々協力してあげている。宮沢家の商売を継いで(ただ、質屋は継がない)、自動車部品などの販売に乗り出す商才ある若者。素直。

 

「銀河鉄道の父」のあらすじ

雨ニモマケズ SUCCUMB NOT TO THE RAIN - 宮沢賢治 Miyazawa Kenji (08/27/1896 - 09/21/1933)

 この小説は、政次郎が京都で、息子の誕生を告げる電報を受け取るところから始まる。「賢そう」に見えるから「賢治」と名付けられた赤ちゃんだった。

 以降、物語は賢治が育っていく様子を、彼が息を引き取るまでの時系列で、父親政次郎の目線から語っていく。

 幼い頃、赤痢で入院した賢治を夜通し看病する政次郎のエピソード、

やがて鉱石マニアになる賢治、成績優秀で進学したものの、家業の質屋を継ぐこともできず、法華経の団体に入信して、家を飛び出してしまう賢治。

 肺病を患い、故郷に戻ったり、妹トシを看取ったり・・・。

 

賢治は、

人造宝石を作る工場を経営しようとか、飴工場を作ろうとか夢のようなプロジェクトを話しては父親を呆れさせる。

 だがやがて農学校教師の職が見つかり、生徒を熱心に教えることと、童話執筆に喜びを見出すようになる・・・。

 

 賢治と父の関係を中心にしながら、明治時代の東北岩手県の、とある一家の生活を垣間見させてくれる物語ともなっている。

 

「銀河鉄道の父」を読んだ感想

 思ったよりも、全然いじらしかった賢治の父親

 賢治と宗教論争を戦わせた父親といえば、どうにも田舎のお金持ちの融通聞かないおやっさん。。というようなイメージがあったけれど、そうしたイメージは一新している。

 不器用だけど、とても息子思いの父親像だった。

 

 そして、小さい頃から賢治が亡くなるまで、息子にハラハラさせられっぱなし。そして、厳しくしようと時にはおもいながらも、結局甘やかしてしまうという、子煩悩なお父さんとして描かれている。

 

 7歳頃の賢治が、赤痢で入院した時も「看護婦ごときにまかせられん」と、みずから病院に押し掛け、夜通し付き添いで看病してしまう。温めたコンニャクで手当したり、汗を拭いてあげたり・・・。

 男、特に家長などが、看護みたいな仕事をするなんて、みっともないと思われていた時代のことである。

 そして、自分まで看病疲れのせいで腸カタルにかかってしまい、生涯、腸は完全には回復しなかっという。

 

 さらに中学まで進学させたものの、質屋を継がせようとした賢治が、だんだん神経衰弱状態になっていくのを見かねて、ついに、高等学校への進学も許してしまう。

 賢治は、困った息子でもあって、勉強のためにお金をたびたび無心してくるのだが、それにも応えてしまう。

 そして、ついに賢治の詩や小説が岩手新聞に乗ると、誇らしくて嬉しくて仕方なくなるのである。

 

 何かこういう、困った息子に振り回される、ちょっとお人好しのお父さんだった。

 

けれども暗黙裏では親子の葛藤もあった??

Enoshima Japan Rocky Shore, 1938

 とはいえ、「銀河鉄道の父」では、こうしたおおむね、のほほんとした筆致で描かれる親子関係の裏にも、暗黙のうちに葛藤があったのではないかという解釈をしている。

 

 例えば、賢治が法華経に熱心になったのも、その裏には、「父の期待に応えられない」というコンプレックスがあったのではないかという・・・。

 本当は長男として質屋という家業を継いで欲しかったのだが、賢治は、質屋の土間で百姓のおかみさんとまともに談判することもできなかった。ぼろぼろの農作業具を、同情からいい値段で買い取ってあげたり、ずっと本を読んでいて、客に「後でもう一回来てくんろ」とか言ってしまったり・・。

 尋常小学校では首席だったが中学の時の成績は、大してよくなかった。

(特に数学が苦手だったと言う・・・)

 

家を立派に支えていってくれ、という期待に応えられず、人並みの働きもできない、そんな自分。

 現代でも、男性は無意識に父親からの期待に応えようと必死になってしまう、などと聞くが、明治時代は、とにかく立身出世がいいとされていた時代。

 暗黙のプレッシャーはもっと強かったのかもしれない。

 

 父親は浄土真宗の信者。

だから、自分が法華経を選び、それに熱心になることが、ある意味父親への反抗を示す、という側面もあったのではないかとゆう・・・。

 

それから、トシが息を引き取る場面でも、対立が起こる。

 

政次郎は、男はきっぱりと決断して、時に情に流されず強く一家を導いていかないといけない!という思い込みというか、そういうふうに力むところがある。

 それで、トシがいよいよ臨終・・・という時にも巻き紙と筆を用意し、「いいのこすことはあるか」と遺言を迫る。

 それを聞いた賢治は、激怒。

 そんな父を脇に突き飛ばして「南無阿弥陀仏」を必死でとなえる。

(トシの命を救ってください、という意味でだろう)

 

 政次郎は質屋の二代目なので、一代目ほどの頑固さや厳しさはない。

おっとりしたタイプ。けれど、それでも商売しながら人生を生き抜くにあたって、色々と守らなければいけないポリシーみたいなものも、自分の中に作らざるを得なかった人である。

 半分は、のんびりした温厚タイプなのだが、半分は、いやがおうにも、用意された価値観や商売人としての生き方を身につけざるをえなかった人。

 

 そういった、世間を生きる上でのしぶとさや粘り強さ、時には世間擦れしたあつかましさが、賢治のあくまで純粋な生き方とは対立していたのかもしれない、と読んでいて思った。

 当人同士が好きで憎み合っていたわけではない、ということだろう。

 

作家として事実を脚色する賢治の姿も描かれる

 面白かったのは、妹トシを看取った時の詩、「永訣の朝」の解釈である。

この詩の中には、「こんど生まれ変わったら、こんなに自分のことばかりでくるしまないように生まれてくる」というような一節が、トシの遺言として書かれている。

 

 だが、この小説の中では、実際にトシはこんなに遺言を明言は出来なかった。

なぜかというと、遺言を書き取ろうとした父親を、賢治が邪魔したから、書き取れなかったのだ。

 

息を引き取る間際のトシが、こんなに明晰で、綺麗過ぎる言葉をいうはずがない、と政次郎が、このくだりを読んで憤る場面がある。

 しかも、トシがみまかってすぐに、賢治はすぐに二階にのぼってしばらく閉じこもっていたから、このときにこの詩を書いたのではないか、と父は推測する。

 だとしたら、現実の妹よりも、自分の心の世界に溺れていたことにならないか?と政次郎は自問するのだった。

 

教師としての賢治が、作家としての賢治の素養にもなった?

 もう一つ面白かったのは、賢治が先生として研鑽を積んだのが、誰の心にもすっと入る童話を描けるようになった一つの練習となったのではないかということ。

 教師に成り立てのころは、賢治の授業というのは、分かりにくくて生徒から不評だったという。

 専門用語を使って、高度過ぎる内容を語ろうとしていたという。

 

 そこで賢治は、自分の教え方を見直して、誰にでも分かりやすいよう、噛み砕いた言葉を使って講義をするようになり、たちまち生徒からの信頼と評価は上がったという。

 こういうふうに、複雑な考えや感情を伝えたい時でも、表現は平易に、比喩をもちいたりなんだり、相手が吸収しやすいように工夫することが、深い思想内容を持つのに、すっと理解しやすい童話を書く素養になったのではないかと、政次郎は考えていた。

 

「銀河鉄道の父」まとめ

Indian Peaks Milky Way

 この物語では、賢治が頼りなくて、病弱で、かと思えばハマったものにはとことん異常なまでに熱中してしまうという、かなり変人で困った息子、という姿で描かれる。

 確かに、宮沢賢治は昔からともすると、聖人的なイメージを与えられがちだけど、父親からみたら、ほとほと困った息子、それでも何か可愛げがあってつい甘やかしてしまう息子、といった感じだったのだろうな・・・。

 父親から見た賢治の伝記にもなっていて、幼少期のエピソードや、青年になってから法華経の国柱会に加入し、駅前でビラまきしたり、街頭で法華経を大声で唱えたり、それから東京に向かって家で同然で飛び出して、とある零細出版社で働いたり、

 また、農学校教師になり、それも辞めて一人で芸術と農業のコミュニティみたいなものを作ろうとしたり・・・

 賢治の人生の軌跡が、ひととおり捉えられている。

宮沢賢治の童話が好きな人は楽しめるのではないだろうか。

それに、ある意味では「天才もの」「変人である天才もの」としても読む事ができる。

 

 また、宮澤家の女たちも、トシ以外はあまり目立っていないが、家の中で、男のかげにかくれて、けなげに家を裏から支えている明治の女達の存在感も感じられた。

 明治時代の、とある家族の肖像としても読めると思う。

 

賢治といえば、今回の芥川賞「おらおらでひとりいぐも」の題名も、賢治由来でした!

こちらのレビューは以下で書いています。

tyoiniji.hateblo.jp

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