スペインの巨匠、ペドロ・アルモドバル監督待望の最新作。「オールアバウト・マイ・マザー」にしてもアルモドバル監督の大切なモチーフの一つには、母親と子供のつながり、というテーマがありますね。
今回の映画も、失踪した娘と、娘が生きがいだった母親の物語に正面から焦点を当てたもの。ハリウッド映画とは違う、ヨーロッパ映画のお洒落さ、スペイン語の音の心地よさも魅力になっていそうです。
感想や口コミ情報をチェックしてみました。
「ジュリエッタ」のあらすじ
原作は、アリス・ムンロのランアウェイという小説。50代のジュリエッタは、ボーイフレンドのロレンゾと共に、スぺインを離れ、ポルトガルに向かおうとしていた。しかし娘の子供時代の友達に偶然でくわし、失踪していた娘が、今や成長し、マドリードに帰ってくることを聞く。ジュリエッタはすぐにポルトガル行きを取りやめ、娘を育てたアパートメントに戻って、遠く離れてもう長年あっていない娘にあてて、すべてを説明し、告白する日記を書き始めるのだった・・・。
「ジュリエッタ」の監督や出演俳優
監督・・・ペドロ・アルモドバル
出演・・・現在のジュリエッタ=エマ・スアレス
若き日のジュリエッタ=アドリアーナ・ウガルテ
ショアン=ダニエル・グラオ
アバ=インマ・クエスタ
ペドロ・アルモドバルは、ガルシア・ガエル君が女装のゲイ役を演じた2004年の「バッド・エデュケーション」も話題になりましたが、その後も数年ごとに旺盛に作品を公開してます。自身が同性愛者であることを公表している映画監督でもあります。
「ジュリエッタ」の日本公開日や上映時間
- 上映時間・・・99分
- 製作国・・・・スペイン
- 日本公開日・・2016年11月5日
- 配給・・・ブロードメディア・スタジオ
「ジュリエッタ」のレビューや感想をまとめてみた!(多少ネタバレ)
原作本とアルモドバルの手法がばっちり合っているという評価
ペドロ・アルモドバルは、愛、喪失、再出発についての、この中身の濃い映画のオープニングシーンから、観客を魅惑する。映画のタイトルにもなっている主人公ジュリエッタの、感情的なトラウマを負いつつも、豊かで情熱的な内面を、色鮮やかで官能的な赤いドレスのクローズアップでもって暗示している。
このアルモドバルの最新作は、ノーベル文学賞作家アリス・ムンロが書いた三篇のショートストーリーをもとにしている。
このコラボは一見、成り立ちそうにない。ムンロは抑制をきかせた作風だし、アドモドバルの出発点は派手で平凡を外れたところにある。けれど、コラボレーションは、人々が予想するよりはずっとうまくいっている。
ムンロの抑制のきいた物語が、とかく過度に走り勝ちなアルモドバル監督の傾向を抑えているということにも理由があるし、女性(その奥深さや複雑さすべてを含む女性)というモチーフが、二人の共通の足場でもあるからだ。
ジュリエッタは、豊富な映画的イメージを与えてくれる。雪の中を、電車にくっついて走る鹿のシーンや、漁師のコテージの、海と同じ高さにある台所の窓などである。
とはいえ何よりも、この映画のかなめは、演技である。厳格な家政婦から、熱い血をたぎらせる若いロマンチシズムに満ちた若きジュリエッタ、そして傷心している現在の年取ったジュリエッタまで。
賑やかで味わい深い祝祭的なヴィジュアルを持ちながらも、アルモドバル最新作は、私たちに、ムンロのショートストーリーが伝えるような、日々の切実な悲しみをも感じさせるのである。
偉大な監督の駄作である・・という意見
若きジュリエッタと結婚したソーンは、浮気についてジュリエッタから問い詰められたとき、何も答えず釣りに行ってしまう。
このジュリエッタという映画にもっとふさわしいタイトルは「ドント トーク・トュー・ハー(トーク・トュー・ハーは、アルモドバル監督の以前のヒット作の題名)であろう。登場人物たちは、お互いに自分たちの抱える問題について向き合うことをしない。
さらにこの映画の決定的に重要な瞬間というのは、いつもスクリーンの外側で起こっていて実際に映し出されない。
ジュリエッタが30代で、夫を無くして打ちひしがれているとき、10代の娘は、とある宗教団体のところへ逃げてしまう。母に首を突っ込まれないでいるのが自分の人生に最良だと娘は考える。ジュリエッタが彼女を迎えに行ったとき、彼女はさよならもいわずに、すでにどこかへ旅立ってしまっていた。
娘が、母を捨てた理由など、いろんなことの理由が最後まで説明されないようになっている。一番最後に謎があかされるまで。とはいえ、その謎解きはそんなに難しいものでない。そんなわけで、観客は、しょうもない娘と、愚かな母親の織り成す中途半端なメロドラマを見せられることになる。
この映画は、偉大な監督でも駄作をつくるんだという事実を思い出させてくれる一本だ。
まさにアルモドバル的な映画、という賞賛
若き頃のジュリエッタのシーンは、驚くほど精巧に再現された1980年代のセッティングの中で行われる。ジュリエッタは電車の中で、娘の父となるソーンに出会い、これが長く情熱的な関係の始まりである。そして、彼らの恋愛関係は複雑でまた嵐のように強烈なものとなる。
そして、私たちは、深く「アルモドバル的な」テーマの数々に向き合うことになる。愛情、喪失感、悲しみ、そして許しなどといったテーマである。スペインの、色鮮やかで派手な洋服や、クレイジーでコミカルなラブシーンなどのおかげで、観客は痛々しさを感じなくてすむ。
明らかに、ペドロ監督は、女性の主人公たちを賞賛していて、ジュリエッタの現在と過去を演じる二人の女優は、素晴らしい演技を行っていて、親密感や、情熱、パーソナルな要素を時折あまりにも強く感じさせるほどだ。
この映画には、ダグラスサークの女性を描いた映画や、ヒッチコック監督の心理学などの影響がみられ、またパトリシアハイスミスや、坂本龍一への言及もチラッとある。けれど、間違いなく、まぎれもなく、この映画は「アルモドバル映画」なのだ。
アデレード・レビュー デビッド・マッドドッグ・ブラッドリー氏 より
まとめ
まず映像の美しさというところでは、間違いがなさそうです。
おなじみの愛・喪失・母子のつながり、といったアルモドバル監督のモチーフが色濃く顔を出している一本でもあるようです。
あとはこの親子にどれだけ感情移入できるかで、面白さが決まるかもしれないですね。
しかし、雪の中を走る鹿とか、漁師のキッチンとか、抒情的でいいなあ。
ハリウッド映画とはまた違って、哀切さや人生の苦みにも溢れているようですが、それがスペインの土地がうみだすお洒落感とあいまって、大人の味わいを作り出しているかもしれません。