芸能人の書いた本というと、眉に唾を付けて(??不正確な使い方)読みたくなってしまう訳なんですが、カラテカ矢部のこの漫画は本物です!!
納得いったのは、お父さんが絵本作家のやべみつのりさんなんですね~。
矢部太郎さんは、これが初めて書いた漫画だそうですがセンスが溢れているのは、やはり幼少期絵本に囲まれて、それを眺めて育った経験が、染み込んでいるのでしょうね。
絵はウマヘタで「私も書けそう!」という感じなんですが、タッチになんともいえない温かみがあります。
それでは読んだ感想などを記します。
「大家さんと僕」の主な登場人物
矢部太郎(僕)
そんなに売れてないお笑い芸人。テレビ番組ではペットボトル飛行機で飛ばされたり、部屋をバイクで走られたりしている。
そんな仕事柄もあって前の部屋が更新できなくなり、古い一軒屋の二階を間借りすることになった。
細身で低血圧。時折、お芝居などにも出演している。気象予報士の資格を持つ。
大家さん
一軒屋の一階に住んでいる大家さん。一人暮らし。「ごきげんよう」をナチュラルに使う上品な老婦人。お買い物は伊勢丹で。87歳なので、太平洋戦争も経験していて、まさに日本の最近の歴史が身内に流れている。矢部太郎を色々構ってくれる。
初恋の人との再会にときめいたり、色々とチャーミング。
野口君
「サンクス!エックス!」「お久しぶりっクス!」など何故かエックス型になるという挨拶ギャグをかます、矢部の後輩芸人。日焼けして茶髪、いつも奇抜な恰好をしているギャル男である。池袋が本拠地。
しかし、草取りなどをやらせると仕事は丁寧。
「大家さんと僕」のあらすじ
ある意味、「サザエさん」的に、日常をまったり描いているので、特別に起承転結があるわけではありません。
ざっくりした流れとしては、テレビのロケでバイクに部屋を走り回られた僕。それを見たマンションの大家さんから「笑っちゃったよー。もう更新しないでね」との一言。
そして僕は引っ越しするのだった。引っ越し先は一軒屋で、一階には大家さんが住んでいる。二階の亡き兄が住んでいた部分を、貸し間にしているのだった。
かくして「大家さんと僕」の共同生活が始まるのだった・・・。
しかし大家さんとの距離は、一般的な東京の生活を考えると、あり得ないくらいに近い!どれくらい近いかというと、
雨が降り出したのに僕の部屋に洗濯ものが干しっぱなしになっていると、僕の留守中に大家さんが取り込んでくれて、それを玄関先にきちんと折りたたんでくれているほど!
最初はとまどった僕も気付くとすっかり、大家さんと仲良しに。
一緒に伊勢丹でお茶したり、なんと旅行にも行ったり、家族のように過ごしている。
その間にも、僕は相変わらずテレビに出ては緊張してうまく喋れなかったり、好意を抱いた女性をデートに誘ったりするも、けっきょくふられてしまったりという日々を過ごしている。
不思議なファミリー物語ともいえるし、ほのぼの青春物語としても読めるのだった。
「大家さんと僕」の見どころ・面白いポイント
大家さんには歴史が詰まっている!
大家さんの視点から見ると、見慣れた東京の街並みが深くて新鮮なものに思えてくる!
例えば、新宿の伊勢丹。ここも、戦後すぐはGHQの本部が置かれていて、リトル・アメリカだったという。それに新宿近くの、ずっと真っすぐな道路。これも、爆撃で飛行場が破壊された時に、滑走路にする計画だったのではないかという。
その他、戦時中は英語を使うのは禁止で、見つかったら罰金を払わなければならなかったとか、砂糖がないから、おはぎも豆の味だけだったとか・・・。
大家さんのお部屋も、畳敷きの上に優雅な洋風家具が置かれているという和洋折衷なインテリアで、なんとも、昔のモダン・日本を感じさせる。
大家さんの昔風の奥ゆかしき言葉遣いも素敵。
「自動販売機」のことを「ジュース・ボックス」と読んだり。「カップル」を「アベック」、「デート」を「逢引き」などなど・・・。
(そうそう、昔の人って、ハンガーを「えもんかけ」、ハイネックセーターを「とっくり」って言ったりしますよなあ~~)
教科書で知っていても、本当に生きている人が経験したものとして、こういう話を聞くとき、一団深いレベルで「本当のもの」として歴史が腑に落ちてくるのである・・・。
大家さんはチャーミング!
このチャーミングさは、大家さんがもともと持っている人間性や可愛らしさと、あと,
ご高齢の方が持つ、意図せぬホッコリ感など、色々混ぜあわさって醸し出されているのだった。
お年寄りなので、長く座っていると、立ち上がるのに苦労してしまう。
でも、そのことを表には出そうとせず、また会話を始めるふりをしてごまかしたりとか。
僕に誕生日プレゼントに寝間着をもらって「長生きして良かったわ」といったり、強風でよろめく僕が差し伸ばした手につかまると、「手なんて繋ぐの久しぶりだわ」といったり、僕の誕生日には、おはぎの上に仏壇用ロウソクがさしてある、なんとも斬新なケーキ(??)でお祝いしてくれたり・・・。
スーパーでは決して買い物せず、伊勢丹を愛好したり・・・。
なんというか品とお茶目とユーモアのバランスが実に良いのである・・・。
二つの青春物語が重なっている!
そしてこのお話は、時を超えて、二人の人間が過ごした/過ごしている、青春時代の甘酸っぱかったりする思いや、人生のほろ苦さが、詰まっていて、それが一軒屋の縁のうちに交錯しているのだ。
それが一番、この漫画を良いものにしている理由かもしれない。
僕はすでに39歳で、テレビ出演などもしているが、そんなに売れているわけではない芸人。体を張った妙な仕事が多く、この仕事続けていいのかな・・?本当にこれがやりたいことなのかな・・?と迷う日もある。
そして好きな女性を銀杏拾いなどに誘い、舞台袖で思いつのって、流れもあって告白してしまうも、「彼氏がいる」とあっさり振られる。テレビのトーク番組などでも緊張してしまい、うまく話せない。
・・・なんというか、お笑い芸人というイメージからは、ちょっとイメージの違う、内気な僕の、青春という感じなのだ。
そんな僕は、大家さんにも仕事のことやデートのことなど、たまに話したりする。
そして大家さんは昔の自分の青春時代のことを語りだす。太宰治やマッカーサー元帥(!)が好きだった。
そして初恋の人とダンスパーティで、一緒のペアになって、とても幸せだったけれど、当時は女性から誘うということは滅多にできない時代だったので何も言えず・・・。その人はほどなくしてお見合い結婚してしまったとか。
(最近地元のサークルで再会して、昔の気持ちを打ち明けるも、すぐにその相手は亡くなってしまう)
自分の少女時代は戦争中だったから、工場に駆り出されて好きな仕事は出来なかったとか。
こんな感じで、年齢を隔てた二人の青春が、交錯するのである。これがなんとも、ほっこりするし、話に深みを与えているのだった。
「大家さんと僕」の感想を少々
大家さんと僕は、奇跡的に話というか、人間としてどことなく相性が良かったのだろうな、と思う。今は特に、お婆ちゃん世代と孫が同居することも少なくなっているから、こういうふうに世代の離れた人とじっくり交流するというのは、レアだろう・・・。
それってちょっともったいないなあ、とも感じた。
それから間借り人と大家の独特の関係性。これって面白い。
金銭関係が発生しているし、もちろん本当の家族ではないのだけれど、やはり家を共有するという関係性からは疑似家族みたいなものが立ち上がりやすい・・・・。
大家さんはどこか他に住んでいて、不動産会社が管理している物件では、こういう関係性ってうまれにくいけれど。
私も過去二軒、大家さんと同じ家に住むアパートがあったものだ。
一軒目は、やっぱりに二階に私、一階に大家さん一家。
一番最初に、歓迎の飲み会を開いてくれたものだった。
それから二軒目は、大家さん宅とは別棟だけど敷地は完璧に一緒で、よく立ち話をしたものだった。
寒い冬の日に、豚汁を持ってきてくれた時には感動した。
奥さんの方の、嫁いだ時の苦労話とか姑が大変な人だったとか色々聞かされたが、面白かった。それから、たまたま獅子座流星群を夜中に一緒に見たりとか。
家族ではないが、ある部分では「家」族になるのである。こういう関係性って面白い。なので「大家さんと僕」も、「家族って何だろう」という問いも、ほんのーり含まれているなあ、と思った。
読み終わると、最近会ってない親戚の人とか、もとの大家さんとかに会いたくなってくる漫画だった。とても良い。漫画としては全然プロのレベルである。
さらっと読めるのもいい。
矢部太郎さんには、これからも漫画家としても、どしどし活躍してほしい!と思ったのだった。
それから矢部さんは「手塚治虫文化賞」のスピーチで、とても感動的なことを言っている。
でも一番は、大家さんがいつも、「矢部さんはいいわね、まだまだお若くて何でもできて。これからが楽しみですね」と言って下さっていたのですね。ご飯を食べていても、散歩をしていても、ずっといつも言って下さるので、本当に若いような気がしてきて、本当に何でもできるような気がしてきて……。これはあまり人には言っていないのですが、僕の中では、38歳だけど18歳だと思うようにしていました。だからいま、20歳(ハタチ)なんです
ということで、40歳だけど、20歳と思って生きてる、っていうのが、今の自分にはとーっても響きましただ。
私もいい年ですからね。しかしいつも実年齢マイナス15歳して生きるようにしています。そうすると希望に満ちてくるのです。新しいこと始めるのに年齢なんて関係ないぜ!