さて、映画「孤狼の血」に、思いがけずドはまりしてしまった私。原作小説も読んでみました。こっちも面白い!けれど、かなり映画版とは違います。
ある意味で別の作品といっても言いかもしれません。
そんなわけで、どこが違っていたのかとか、読んだ感想などを書いておきますのでご参考ください。
あ、ネタバレしまくるので、映画まだ観てないって方は、読まない方がいいかもしれません!
映画観てから読むと、役者の顔をイメージしつつ読むという楽しみもできます。ただ、小説と違うイメージで描かれているので多少混乱するかも?
小説は角川文庫で発売。表紙には、大上愛用の、狼のジッポ写真です。
小説「孤狼の血」のあらすじ
映画と大枠は同じです。
呉島市の暴力団係に配属されてきた新米刑事、日岡。
破天荒なマル暴刑事の大上班長とペアを組まされます。
大上は地元暴力団と気脈を通じていて、日岡の目からしたら癒着状態。
しかし、拳銃摘発などの成績も抜群によくて、表彰もされています。
折しも、呉原では、尾谷組と加古村組の抗争が勃発しようとしていた・・・。
それを阻止するため、大上は加古村が犯したと思われる殺人事件を立件しようと奔走するのだが・・・。
とまあ、筋は同じです。
柚月裕子さんのプロフィールは?
女性が書いたということに驚いた方も多々いらっしゃるようですが・・・。
まあ昔から実はミステリ分野や骨太政治小説は意外と女性も活躍しているんですよね。
宮部みゆき然り、アガサ・クリスティもそうですし、「華麗なる一族」の山崎豊子なんかの政治小説も骨太ですね。
岩手県出身の作家さん。昔から男の世界を描いた物語が好きで、ミステリ作家としてデビューしました。
「盤上の向日葵」は本屋大賞候補にもなっています。
シャーロックホームズや横山秀夫が好きで、
もちろん「仁義なき戦い」や「県警対組織暴力」にも大きな衝撃と影響を受けたそうです。
小説「孤狼の血」の登場人物は映画とどこが違う?
さて、大枠は一緒ですが、登場人物のディテールは、けっこう違います。
柚月さんの原作小説は、なんといっても「昭和」の香りが濃厚で、もっと泥臭い感じです。
「仁義なき戦い」とか「県警対組織暴力」とか、やはりその辺りをモデルにしていて、
登場人物のイメージも、泥臭いです。
映画版「孤狼の血」は、舞台は昭和ですが、やはり衣裳舞台セット、役者、皆、平成らしい洗練された感じがありました。そこが良かったんですが。
大上章吾
大上は、小説ではパナマ帽がトレードマーク。いつもこれをかぶってます。
映画では五十子組長がかぶってたようなヤツですね。
そして、年齢は44歳。まだ結構若いです。
また、映画の方が破天荒でした。小説では、昔のマル暴イメージど真ん中な感じで、アウトローだけど、もうちょっと大人しいです。
ただ声は、煙草の吸い過ぎでか、掠れたダミ声という設定です。
また、昔、妻子を交通事故で失っているという過去が明かされます。おそらく、五十子会の手によって。
あと、日岡に、自分が煙草を吸う時には、必ず火を付けろと命令。
日岡秀一
日岡は、主人公なので、割と透明に書かれてます。そんなに癖もなく、容姿などについても書かれてません。
警察に入った理由については触れられていました。
日岡のよくできる兄が地元市役所に勤めるようになったので、次男の日岡は、両親の期待から自由で、広島大学を出たけれど、世間のレールにそって生きるのは嫌だと、警察官を志望したとのことです。
でも、日岡自身の思いはそれほど語られません。
瀧井銀次
映画では、ピエール瀧が演じる、右翼団体代表だった瀧井。
ですが小説では瀧井組の組長になっています。普通のヤクザで。サブカル(?)的要素は持ってません。
大上と同い年で、10代の時からの喧嘩仲間だったという設定。大上と互角に戦えるのは瀧井だけで、喧嘩した時には二人同時に気絶してぶっ倒れ、それから仲良くなったという話。
一ノ瀬守孝
映画版では、江口洋介が、スタイリッシュで渋い若頭を演じていました。
小説では、外見がかなり違います。
年齢は35歳くらいだし、角刈りで、白いシャツを着ています。
スタイリッシュ感はあまりなくて、「仁義なき戦い」とかによく出てくる、どっちかというと男臭いタイプの外見になっています。
冷静沈着で、どこか品があるというのは、共通していますが。
晶子
映画ではクラブ「梨子」のママ、真木よう子が演じていた人物に当たります。
でも、かなり設定は違います。
まず、クラブホステスではなくて、元ナンバーワンホステスですが、今は小料理屋を経営している、おかみさんです。
大上が、よくここに顔を出します。
大上と付き合っているわけではないのですが、いわゆる共犯関係として深いつながりがあります。例の、14年前の殺人事件ですね。ここは映画とだいたい同じ。
小説より映画版の方が、グロくて下品だった!
これは白石監督も、インタビューでおっしゃってましたが、「柚月さんの原作にない、下品なところは僕らが全部付け足しました!」とのこと・・・(笑)
これは本当にそうで、下品だったところや、グロかったところは、ほとんど映画オリジナルだと思っていいと思いますw
- 真珠取りのくだり
- 養豚場でのリンチ、豚の糞
- 五十子会長のお下劣ギャグ「ビックリ、ドッキリ、以下略」
- 警察署での尋問シーン
- 苗代らが逮捕された時の旅館での乱痴気騒ぎ
- 日岡が養豚場の兄ちゃんをぶちのめすシーン
- 一ノ瀬が長ドスで復讐するシーン
これら全部、映画版に付け加えられてて豪華な血みどろのオンパレードとなっていました。エンタメとしては、正解でしょう。
小説では、真珠取りでなくてw、顔を包丁で切りつけるというものになってます。まあこれも充分怖いが・・・汗 そして暴力だけでなく、大金を渡して事実を吐かせるという、老獪な手法も大上使ってます。これは映画ではカットされてますね。
小説版にはなかった、あの復讐シーンは映画ならではのカタルシスに溢れていましたね。
例外としては、小説でも、二つの遺体は割と描写されています。
小説「孤狼の血」のラストは、もっとあっさりしている
大上がこの世を去ってからの展開は、小説ではもっとあっさりと描かれていました。
実録風に、何が起こったかが年代順で箇条書きにされます。
五十子が上部組織から除名処分され、その後一ノ瀬も腹部を刺され重傷、その後五十子会長は愛人宅で射殺され、尾谷組長が出所、引退表明、一ノ瀬が後を継ぐ。
さらに、それから16年後くらいまで、箇条書きされます。
それによると、日岡はいったん呉原を離れるものの、巡査部長まで昇進して、ふたたび呉原の暴力団対策課に戻されるとのこと。
かつて知ったる土地ですから、大上の後を継いだ感があります。
映画では見せ場だった復讐シーンはありませんでした。小説の方は、バイオレンスよりも、話の筋でぐいぐい読者を引っ張っていきます。
小説を読むと、人物の背景が詳しく分かる
映画版「孤狼の血」では、時間の制約上か、人物の背後事情や関係性については、あまり丁寧に描かれていませんでした。
これが小説では丁寧に解きほぐされています。
例えば五十子は、昔から老獪な手法で、疎んじられていたところもあるヤクザで、昔に同じ組の兄貴分を薬で意識を失わせ、海に投げ込んで、自分がその地位を奪ったと噂されています。
これは兄弟分の絆を大切にするヤクザ業界では御法度。知られれば、他のヤクザから絶縁されてもおかしくない。
このネタを掴んだ大上が五十子を脅しにかかります。
それから一ノ瀬と大上の会話シーンも多くて、和やかに雑談する様子がありました。瀧井は大上のことを「章ちゃん」と呼んでいるし、映画よりも、原作の方が、警察とヤクザの垣根が薄くて、昔からの友達付き合いしているのが分かります。
一ノ瀬も大上が行方不明になった時に「ガミさんになんかあったら五十子のやつ、皆ぶちころしちゃる!」と激高したりするので、映画の方でも、一ノ瀬と大上の絆がもっとちゃんと描かれていたら、最後の復讐シーンも、一層際立ったのかなあ、と思いました。
映画版では、警察とヤクザの間にもっと距離がありましたね。
映画版オリジナルのテーマ(?)もあった
映画「孤狼の血」では「正義とはなんじゃ?」という言葉が、裏テーマみたいなものにもなっています。政治家のスキャンダルが続く昨今、本当に身に染みますが・・・汗
小説では、特別に「正義とは・・・」という問いかけはされていませんでした。
そして「暴力団は活かさず殺さず・・・」という台詞も原作小説にはありませんでした。これは、映画版は警察に気を使ってこの台詞を入れたんでしょうかね??(謎)
小説では日岡がスパイというのは、最後に分かる
映画版では、日岡が県警本部の監察から送られてきた、スパイだというのは最初の方から分かりますが、小説ではそれは最後に明かされました。
ガミさんが、監察日誌に添削したりする、エモーショナルなシーンもありません。
だいたい、映画版と小説の違いは、こんなところでした。
どちらかというと、小説の方が実録風で「仁義なき戦い」とかの世界に近いです。もうちょっとドライで、暑苦しい感じはしない。
でも推理作家協会賞受賞ですし、思わず一気読みしちゃう、流石の力作です。
結論としては、映画も小説も、どちらも面白かったです。
それぞれの良さがありました。
映画では、役者や監督の熱量がぶちまけられていて、あの暑苦しさと、出血大サービスが大変よろしかったと思います。
それから「仁義なき戦い」に比べると、やはり現代人から見たスマートな男前が沢山出てくるので、涎が垂れますね。そこも映画版の醍醐味でしょう。