後半になるにつれ、どんどん面白くなる話だった。主人公の境遇のわりに重い面はほとんどなく、ほんわか幸せな読後感が残りました・・。
今年の本屋大賞は、人気作家目白押しでしたが、時代はこういう、安心させてくれるような世界を求めているのだらうか・・・。
本屋さんが売りたい本を投票する賞。
つまりは、ある意味読書好きの一般人の意見を正確に集約している賞ですからねえ。
ここ数年は、芥川賞・直木賞という、ツートップよりも、むしろこっちの方が楽しみな人も増えているのではいだろうか??
ちなみに二位は、『ひと』小野寺史宜
三位は、『ベルリンは晴れているか』深緑野分
四位は、『熱帯』森見登美彦
五位は、『ある男』平野啓一郎
でした!
さて、「そして、バトンは渡された」のあらすじ等を紹介、感想も書きます!
「そして、バトンは渡された」登場人物
↑ちなみに造本が可愛い!!
表紙は二枚重ねになっていて、こけし風のバトンが箔押しされた緑色のカバー。それを取ると、茶色い紙に、バトンとリボンのパターンが印刷されている。
- 優子
主人公の女の子。物語の大半を占める第一章では、高校生が現在時。幼い頃に母親が亡くなってからというものの、数奇な運命(というか、ほぼ後述する梨花のせい(;^ω^))により、母親が二回変わり、父親が三回変わるという尋常ではない子供時代を送っている。
学校の成績は割とよい。中学時代、ピアノにはまる。
環境のせいか、どこかいつも客観的で落ち着いている。
わりと異性にもてる。
- 水戸
血のつながった、最初の家族。お母さんは天国へ、そしてお父さんは男手ひとつで子育てしたのち梨花と結婚。
爽やかでまわりに気配りできる男性。
でも梨花とはうまくいかず、ちょうどブラジルに転勤することになってしまい、単身地球の裏側へ旅立つ。それ以来、優子とは会っていない。
- 梨花
第二の母親。
特に美人ではないけれど、目が大きくてお洒落でモテるお姉さん。
結婚はわりと打算でするw。
しかし血のつながらない優子を何より大事に思って一生懸命愛情を注いでくれる。
明るく朗らかな性格。
稼いだお金はすぐに服やバックに使い込んでしまう。
我慢できないタチで、気に入らないことがあるとすぐに新天地に旅立ってしまう自由人。
- 泉ヶ原
第二の父親。
保険の営業をしていた梨花の顧客の一人だった。不動産会社を経営しているお金持ち。お手伝いさんのいる大きなお屋敷に住んでいて、風格あるグランドピアノを優子に思う存分弾かせてもくれる。
そんなに一緒に時間を過ごしてくれるわけではないが、優子を見守ってくれる。
- 森宮
第三の父親。
梨花の元同級生。同窓会で再会した梨花に目をつけられる。東大卒で一流企業に勤めているので、年収は高め。
顔は中の上くらいだが、変わり者のため、全然モテない。梨花と別れてからは彼女もできない。料理が得意で、優子にも色々作ってくれる。(優子が食べたい料理かは別・・・)
- 萌絵
優子の高校の同級生。恋愛トラブルで、一時期優子をシカトする。
- 浜坂君
高校の同級生。優子が好きで、一緒に競技大会の実行委員になろうと誘う。
お調子者だが、素直なムードメーカー。一途なところもある。
- 早瀬君
音大をめざしている優子の高校の同級生。ピアノは流石に上手く、皆が聞きほれてしまうような、とびぬけた腕前。ピアノの先生をも凌駕することも。
見た目はがっしりしたスポーツ系の青年に一見みえる。
優子は、早瀬君のピアノに惚れ込み、さらに早瀬君自身も好きになってしまう。
- 脇田君
優子が高校時代、一時期付き合っていた。
「そして、バトンは渡された」あらすじ
題名と、装丁から想像がつくとおり、この物語の中で「バトン」にされているのは主人公の優子。
現在、高校生の優子は父親の森宮さんと暮らしているが、彼はまだ37歳だし、血がつながった父親ではない。
そして母親の梨花とも、血は繋がっていないし、大体梨花は、森宮さんの家を出て行ってしまって、優子とは外でお茶するくらいなのである。
なんでこんな複雑な家族状況なのか??
それを、優子が小学校の時と、中学の時のシーンが、交互に現れてだんだん全体像が見えて来る。
最初の母親が亡くなってから、父親の水戸は梨花と再婚。
でも水戸と梨花も関係がぎくしゃくしだし、水戸がブラジル転勤になったのを期に、梨花と優子は日本に残ることになった。
水戸と梨花は離婚。
しばらく梨花と優子二人だけの生活が続く。
そして梨花は、お金持ちの泉ヶ原さんと結婚。優子もその家で暮らす。
でもお手伝いさんがいて格式ありすぎる生活が窮屈になり、梨花は脱走してしまう。
そこで優子だけ、泉ヶ原さんの家で暮らし続ける。
やがて梨花は、元同級生の森宮と再婚。優子を引き取って、三人で一緒に暮らす・・・と思ったら、梨花はまた家を出て行ってしまい、父親役をはりきる森宮と二人暮らしに・・・・なう。
というところ。
第二章では、優子はすでに22歳。
結婚相手を見つけている。だが現在の父親である森宮は「あんな風来坊なんかと!」とフラフラしている彼氏との結婚には大反対。
優子と彼は、他の親を説得すれば森宮さんも折れるだろうと、梨花、泉ヶ原、水戸という歴代の親に連絡を取ろうとするのだが・・・・。
「そして、バトンは渡された」を読んだ感想【ネタバレあり】
主人公の運命を操っているのは梨花なのでは!?
二番目の母親である梨花が、実はこんなに複雑な家族状況を招いている犯人なのではないだろうか・・・というか、それは間違いないだろう。
梨花は、いかにモテるかを知っていて、しかもその女性としての魅力を自分のためだけに使っているわけでもないのがポイント。
第一の父親である水戸と別れてから泉ヶ原と結婚するが、この理由も、「本格的なピアノが欲しい・・・」という優子のためである。
泉ヶ原さんは裕福で、防音室には立派なグランドピアノを持っている。この人と結婚すれば、優子は毎日ピアノが練習できる!
とまあ、そんな理由である。
泉ヶ原さんには、特に恋愛感情は抱いていないようだ。
そして森宮と結婚するのも、勉強できるし一流企業の社員だし、真面目だから、優子をちゃんと面倒みてくれそう・・・と思ったからなのである。
それで、森宮も泉ヶ原もその期待には見事にこたえる、誠実な人物だった。
梨花は、男を見る目は鋭いのである。
そして、その男の心をちゃんと掴んで、結婚にまでいたるのだから、なかなか凄い。
こんな梨花に、優子の子供時代は、けっこう振り回されている感じがある。
でもそれでも、愛情をしっかり注いでくれているので、優子はぐれなかったのかも。
男子が、直球すぎる??
物語中には、優子と恋仲になる男子が三人登場するのだが、なぜだかそろいもそろって、竹を割ったような性格というか・・・あっけらかんとして、陰とか全然ない。
ま、そこがいいんだけど・・・。
浜坂君も、優子に「競技大会終わったら、告白しようと思ってー」などと、皆の前で優子自身に、告白の予告をしてしまう、あっけらかんとした男子。
そして早瀬君も、「森宮さんは俺のこと好きなの?」とストレートに尋ねてくるし、
脇田君もデートでは「森宮さんと長く一緒にいられるから嬉しい」などと、てらいもなく言う。
高校生の男子って、こんなに素直だったか???
好きな子がいても気持ちがグルグルするばかりで言い出せなくて、あげくのはてに、特に好きでもない子と付き合っちゃうのが、高校男子じゃない??違うかね・・汗
しかし、この三人の向日的というかネアカっぽいというか、陰のない清潔な感じは、なかなか読んでいて気持ちよかった。
こういう男子にばかり好かれる優子というのは、生まれ持った運があるのかしらん?
主人公の優子は強運の持ち主
こう養子入りが何度も繰り返されると、大抵どこか心がひねくれてしまうケースが多そうだが(という見方がステレオタイプであるが)
優子は、本当にまっすぐ、穏やかに育っている。
これには、やはり一つは親たちの巡り合わせが結構よかったこともあるだろうと思う。
特に父親。
二番目の父は、資産家だし、三番目の父も東大出のエリートである。
金銭的な面で困らなかったのは勿論、(梨花と二人の一時期のぞき)
二人の父親とも、誠実で、子どもを虐待したりもしないし、継子イジメもしない。
(森宮はまだ自分の血のつながった子供はいないし、泉ヶ原さんの他の子供も登場しなかった)
どの親も、優子のことを大事に思ってくれる。
なかなか、こういう境遇に恵まれることって少ないように思う。
優子の天性の落ち着き感もあるのだろうけれど、ラッキーな星回りだったともいえそう。
本当の親子じゃない分だけ、ほどよい距離感が保てる??
「そして、バトンは渡された」の中では、優子の不思議な家庭環境と、周りの友達の通常の家族環境を比較する場面も、しょっちゅう出て来る。
優子からすると、同じ年ごろの女の子が「お父さんは不潔で厄介」というのも、信じられないという。
面白いとことしては、森宮さんは、本当の親子じゃないからこそ、歴代の親に対抗心を持っていて、優子によくしてやろうと頑張る。
「優子ちゃんの親選手権があったとしてだよ。」
と
「水戸さんは優子と血がつながっていて、そもそもポイント高いし、おむつとか替えて大変な時期を育てている、それに泉ヶ原さんは裕福だから教育にお金をかけられた、そして梨花もすごい行動力で、優子を幸せにするため金持ちと結婚した、、、、」
みたいな感じで、「おれが一番イマイチにならないよう」頑張るのである。
羨ましい部分と、羨ましくない部分
読んでいると、優子が羨ましくなってくる部分も結構ある。
羨ましいのは、親が何人もいる=いざとなったら頼れるパトロンが何人もいる!!
という状況だということ。
もちろん優子も、もとは家族でも、今は離れて、新しい家族と生活をしている人らには、遠慮して連絡取らなかったりする。
でもなんといってもやはり少なくとも数年を一緒に暮らしたという経験は大きい。
何かピンチの時には、頼りにいけば、助けてくれそうな人ばかりだ。
特に森宮も泉ヶ原も、経済力はるので、文字通り「パパ」をいっぱい持っている優子はいいな~~、人生の安全網がはりめぐらされていて羨ましい・・・と思ったりした。
そして、みな血がつながっていない分、適度な距離を置いてくれるのもいい。
優子がしっかりしていることもあるけれど、勉強や習い事に口出ししてこないし、本当の親みたいに、「〇〇しろ」「出世しろ」みたいなプレッシャーを押し付けてくることもない。
本当の親子だと、親がやりたかった夢を、子供に追わせることって、ありがちだと思う。でもそういう、子どもへの依存というか、同一化みたいな心情を親が持っていないので、変なプレッシャーに押しつぶされることもなさそう。
逆に、羨ましくない部分としては、何回も引っ越しして、新しい家庭環境にも慣れないといけないのは、しんどそうだなあ、ってことだろうか。
大人でさえ、引っ越しってなかなか大変だったりするけれど、同時に家族まで変わるのは、なかなか大変そうだ。
まあ、引っ越しの手配とかは大人が全部してくれるわけだから、その点は楽からな・・・。
読み進めるにつれ、面白くなる
最初は結構淡々としているなーと思い、特別に刺激を感じるわけでもなく読んでいたのだが、恋愛のエピソードが入るとだんだん、優子自身の思いが前面に出てきて、感情移入しやすくなってくる。
そして、結婚相手を見つけたあとの第二章が、自分には一番面白かった。
もちろん生い立ちから高校生までを追う第一章があっての二章なのだけれど。
第二章で、第一章で舞台から消えていった親たちに再開する場面はなかなか良かった。
優子の彼氏の「風来坊」っぷりもいい。
イタリアに行きアメリカに行き、職業もまだ迷っていて・・・という。
そしてこの彼氏も一章で登場してきた意外な人物だったのもよかった。
最後は、優子を見守る親の気持ちになる。
主人公は優子なので、優子の視点から物語は展開する。
なので、優子の心の呟きを見つめるような感じで読んでいくのだが、感情移入するというよりは、だんだん、この落ち着いた優子を「たいしたものだ」と応援したくなり、見守りたい気持ちになってくる。
友達に無視されても、一時期のことだし、ありがちなトラブルだし、仕方ない、萌絵がわるいわけじゃない・・・・と淡々と過ごせるのもすごい。
そして栄養や食べ物について学べる、短大への進学を決めていて、学力的にもそこが妥当な学校で・・・なんというか、とても堅実に、地に足が着いている女の子なのだ。
「たいしたもんだ」
と思ってしまう。
そして優子を取り巻く大人たちが、見守る視線へといつのまにか感情移入してしまい、第二章では、ああ、相手が見つかってよかったね・・・新しい生活への門出だね、結婚おめでとう!
と、ほんわか心が祝福であたたかくなるような心地がした。
・・・中高生も読めるし、意外と、これから子供を持つ予定のパパ・ママが読んでもいいんじゃないかと思ったのだった。