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映画「それでも夜は明ける」の感想。奴隷は神と矛盾しないのか。【アカデミー賞受賞作】

  • 12 Years A Slave

 2014年に第86回アカデミー作品賞を受賞した「それでも夜は明ける」。北部の自由黒人だったのに、白人の裏切りによって南部に奴隷として売られ、悲惨な環境の中で十二年間を生き延び、ついに自由を手にした、ソロモン・ノーサップの物語。

 今見ると本当に信じられないようなことが起こっているが、今日の世界も奴隷労働とは無縁ではない。色々考えさせられる一本だった。

 

「それでも夜は明ける」のあらすじ

 ソロモン・ノーサップは1841年にワシントンで誘拐され、その後ルイジアナ州で奴隷労働に従事することになる。これは、実名の人物の伝記が基になっている。彼はバイオリンを弾くことができて文字を書くこともできる、教養ある黒人だった。そして自由証明書を持ち、自分自身の家庭を持って、妻と子供たちと一緒に暮らしていたのだった。白人の友人も多く持っていた。

 ところがある日、一人の白人が彼を裏切り、ソロモンは奴隷として南部の農場に売られてしまう。自分は自由黒人だといっても、粗野な白人たちは、まったく取り合わず、嘘つき呼ばわりする。

 ソロモンがそこで体験したのは、白人が日常的に、黒人を鞭打ち、少し気に入らないことがあれば絞首刑にして、まったく動物として扱うひどい現場だった。ソロモンが、工事の際に知恵を出したりすると「生意気」だと思われるため、やがて彼は読み書きができないふりをするようになる。ソロモンは、実は名前まで否定されてしまう。奴隷としてまったく違った名前を付けられる。

 折節で、なんとか家族のいる北部へ戻ろうとするソロモンだが、挑戦はいつも白人に勘付かれたりしてうまくいかない・・・。やがて十二年が過ぎようとする頃、彼はカナダから来た奴隷廃止論者の白人弁護士と出会うことになる・・・。

 

映画「それでも夜は明ける」の監督やキャスト

監督・・・スティーブ・マックイーン

出演・・・ソロモン・ノーサップ役=キウェテル・イジョフォー

     エドウィン・エップス役=マイケル・ファスベンダー

     フォード役=ベネディクト・カンバーバッチ

     ジョン・ティビッツ役=ポール・ダノ

     バース役=ブラッド・ピット

 スティーブ監督は、ロンドン生まれ、黒人の現代美術アーティスト・映画監督だ。美術畑出身だけあって、映画は横長ワイド画面で、南部の自然を美しく切り取っている。

 キウェテル・イジフォーはアーティストらしい個性的な雰囲気を醸し出して、名演技を見せている。終盤で登場するバース弁護士は、ご存じブラッド・ピット。

 

「それでも夜は明ける」の上映時間や日本公開日

  • 上映時間・・・134分
  • 製作国・・・アメリカ・イギリス合作
  • 配給会社・・・ギャガ
  • 日本公開日・・・2014年3月7日

「それでも夜は明ける」の感想

奴隷制度の不合理さが目に付く

 人間が人間を奴隷にしてしまうと、その奴隷はもちろんだが、使っている主人たちのほうも、こんなにも堕落してしまうのだなという見本が随所にあった。

 そして、やはり色々ムリがある。ソロモンが工事の知恵を提案して、それがうまくいくと、白人の中には「奴隷のくせに」と面白く思わない輩が出てくる。

 色々と難癖をつけて嫌がらせをしてきたりする。(こういうブラック上司とか、いそうであるが・・・)そして最後には素手での喧嘩のようになって、ついつい頭に血がのぼったソロモンは、相手をコテンパンにのしてしまう。対等な人間同士だったら、これですんだところだろう。ところが奴隷の身分でそんなことはしてはいけなかった。

 相手の白人は、屈辱をはらすため、仲間を引き連れてソロモンを絞首刑にしようとする。ほとんど木からぶら下げられて、しばらくつま先だけで何とかこらえながら救いを待つソロモン。そしてこのシーンを冷静に眺めている農園主の奥方。

奴隷制度と神は矛盾しないらしい

 黒人たちも大体がクリスチャンであるので、白人が黒人の暴力をふるうのを目のあたりにしたときは「こんなこと神様が許さない!!」「あんたは罰を受ける!!」と叫ぶのであるが、白人の農園主は「罰??これは罪なんかじゃない。なぜってお前ら黒人は、神が奴隷として、おれらに与えたんだからな」と答える。

 そして黒人の若い女性を農園主は手籠めにしているのだが、彼女についても「神が美しい彼女、黒人の中の黒人を、私に与えてくれたんだ」というふうに漏らす。

 もともとキリスト教は、動物を人間に従属するものとして神がアダムに与えた、という設定がある。そしてこの時代、黒人奴隷は動物と考えられていた。だから、動物に何をしたって、神が与えたものだから構わないという考えになってしまうのだろう。

 

 こういうふうに「自分たちとは違う」とみなした存在を人間扱いしない、痛みも感じないものと前提して扱うというのは、今の時代まで続いている問題だろう。

農園主の奥方が怖い

 自分の夫が黒人奴隷の若い女の子を(一方的に)気に入っているのに勘付いている奥方は、この子に非常に辛くあたる。踊っている時に、ガラス瓶を投げつけたり、「彼女を売ってしまえ」とか「鞭打て!」とか。見かけは、当たり前だが色白で綺麗な女の人。少しは情けをかけてくれそうな外見なのに、氷のように冷たい。

 西洋の国に行く前にはあまり見たくない。・・・そして、これは何もこの奥方が特別に冷酷だったというわけではなく、当時のアメリカ奴隷制度の下では多かれ少なかれ皆がこのように冷酷であって、自分たちが冷酷なことにも気づいていないくらいだったのかと思う。

自然描写は美しい

 悲惨な境遇を描き出す一方で、南部の綿花畑や草原などの緑は非常に綺麗に、そしてのどかにうつしだされている。畑には穏やかに日が差していて、平和そのもの。時に子供たちがはしゃぎまわる声すら聞こえる。だがそこには同時に鞭の音も響くのだ。この眠気を催すような静かでのどかな場所の描写が、過酷な現実と不思議に対比されていた。

 

まとめ

 アメリカの奴隷制度の歴史を垣間見るには、いい映画だと思う。自分の家を持てて、フリルのあるドレスやエレガントなスーツを着て、紅茶とクッキーで家族で憩える自由黒人と、泥だらけの作業服と鞭の跡だらけの背中で一日中働き続ける黒人の対比がまた、とても矛盾を感じさせた。

 ソロモンは、やっと奴隷から解放された後は、奴隷制度廃止運動の活動家として、講演を行ったり、逃亡奴隷をかくまったりと尽力をつくしたそうだ。

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