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「ニムロッド」上田岳弘を読んだ感想・あらすじ。ビットコイン採掘やらで最先端だが、やや尻すぼみ!?【2018年下半期芥川賞受賞作】

 ビットコイン、仮想通貨、中本サトシ・・・それに、外資系金融会社で働くガールフレンド・・と何やら最先端なキーワードが散りばめられる本作。

 リアルなわれわれの暮らしが書かれていることを期待して読んだ!わるくないけど、ちょっと結末が尻すぼみだったかなあというのが素直な感想でし。

 でも話題性あるトピック扱っているから、芥川賞獲るかなあ~とは、なんとなく思っていた。

 

 ではでは、詳しく読んで思ったことなど書きます。

 

 

「ニムロッド」主な登場人物

 

  • ナカモトサトシ

主人公。30代後半。IT系の会社で働いているが、社長の気まぐれ(?)でビットコインをマイニングする、新しく新設された課の課長に就任することになった。

 「ナカモトサトシ」中本哲史という名前は、偶然、ビットコインの仕組みを考案したとされる伝説の人物と一致している。

(ちなみに、現実の話として、あるオーストラリア人が、自分が”ナカモトサトシ”だと名乗りをあげている。多分、日本人では、ないと思われる。親日の外国人だったのかもしれない)

 

  • 田久保紀子

主人公のガールフレンド。30代後半。外資系金融会社で働いている、エリート女性。

有能で、M&A案件担当したり、かなり稼いでいると思われる。

バツイチ。

前の旦那との間で、一度妊娠したのだが、出生前診断で障害があることが分かり、中絶してしまった。このことがトラウマになっている。

 

  • ニムロッド(荷室さん)

中本の会社の先輩。

小説家も目指していて、新人賞の最終選考まで三回立て続けに残ったのに落選してしまった後から、ウツになってしまった。

でも今は職場復帰している。

今も新たな小説を書いていて、中本に草稿を送って来る。

 

「ニムロッド」あらすじ

 

直木賞と違って、いわゆるクッキリした物語の筋みたいなものは無かった・・。

 

ある日、ビットコイン採掘をする部門(スタッフ一人だけ・・・)の課長になることを社長に命じられた主人公。

一月、30万円の利益を上げられていたが、ビットコイン価格が下がるにつれ、月に10万円くらいの利益になってしまう。だが細々と続けている。

社長は、どうせなら新しい仮想通貨を作ろうか??などと言い出している。

 

中本は、不思議な現象が一つある。

片方の目から、感情とは関係なく、いつの間にか涙がポタポタ滴り落ちて来るのである。

先輩の荷室さんは、小説のネタに使いたいから、その現象があったら教えろと言っている。

ニムロッドこと荷室さんは、「ダメな飛行機コレクション」という変なメールを中本に送り付けて来る。

これは、歴史上本当に存在した、飛行機の失敗作や、考え方が駄目だった珍妙な飛行機を色々紹介してくるメール。

 

この小説は、色々なエピソードが入り混じる式になっている。

 

主人公と、田久保さんのやり取り、田久保さんのコンプレックスについて、そしてニムロッドの書いている小説の断片、そして飛行機についてのメール・・・。

だいたい、その三つの層が交互に提出されて語られるようになっている。

 

特別に、起承転結などがあるわけではない。

 

「ニムロッド」上田岳弘作を読んだ感想

 

リアルに現代!

 作者の上田さんは、実際にIT系のベンチャー企業を立ち上げて、現在はその役員だという。

 なので、その作者来歴にピッタリな内容なのが、今回の作品だったと思う。

 

ビットコイン採掘、それに外資系金融会社でバリバリ働く女子、愛用しているiPhone8、出生前診断、、、などなど、最新のテクノロジーが沢山登場してきて、

いかにも「現代」な「ナウ」(死語・・)「イマドキ」な感じである。

 

 ま、でもIT企業役員じゃなくても、こういうテクノロジーは、もう今は誰にでも馴染みがあると思う。現実が数十パーセントは仮想現実化している中で生きているのが、われわれじゃないだろうか。

 そんなところが、親近感を持てた。

 

 物語が割と、問わず語りというか、とりとめもなくて、飛行機の話が出てきたと思ったらバベルの塔の話、そして小説の新人賞の話からビットコインの話まで、色々な断片が繋ぎ合わされているのも、ある意味では、私たちの今の意識のありようを反映している感じで、わるくないのではと思った。

 インターネットやSNS、そして現実の悩みとか、色々現代人の意識って、めまぐるしく移り変わるから・・・。

 

 彼女の田久保さんが、シンガポールとか海外に出張していて、稼いでいるハイスペック女子なのも、男女平等が進みつつあってグローバル化も進んでいる今の肌感覚を反映していると思う。

 

駄目な飛行機を読むのは楽しい

 物語のアクセントになっているのは「ダメな飛行機コレクション」というやつ。

これはニムロッドさんが、小説に取り入れているデータ。

歴史上本当に作られていた「駄目」な飛行機が色々と紹介される。

 

円筒形で、ロケットみたいに垂直発進してから空中で水平飛行にうつるものとか、アメリカやロシアが開発していた原子力飛行機とか・・(ロシアのは、被曝のため実験に参加したパイロットがあの世行になっている・・ガクガクブルブル)

 

あと、日本の第二次世界大戦中の、自爆飛行機「桜花」。

ちまたで有名だが、これなんか出口がないのである・・・・。

敵艦に体当たりして自爆することを目的として作られているため、生還できないのがデフォルト。(く、狂ってる!!!)

 

荷室さんは、こういう変てこな失敗例があるからこそ、人間の技術が発達してきた。。的なこともチラリと発言してはいたが、

なんか、全体の書き方のトーンとしては、あまりそういう前向きな感じでもなかった気がする・・。

そういう不条理さを、人間社会というのは含み持っているんだよね、というような感触を読んでいて感じた。

 

この飛行機のくだりは、文明に対する批評的な役割も果たしているし、面白いのではないかと思った。

 

物足りなかった点は?

 こういう設定に曳かれて読んだわけで、そんなに退屈することもなく、淡々と最後まで読み通すことができた。

なんだけど、ちょっと物語の筋が無さ過ぎといえば、なさすぎなので、「あれ、これで終わっちゃうんだ、結局なにも起こらなかったな」と、結末はあっけなかった。

 

  大部分が、仮想通貨や、駄目飛行機などに関する、とりとめなもない考察で構成されていた。あとは出生前診断とか、海外出張とか、そういう割とここ最近広まったライフスタイルの中で生きている現代人の日常生活が、なんとなく描かれている。

 

 なので、ある意味では別に小説という形を取らなくてもいいようなところはある。ただ、ITなどに囲まれた現代人の日常生活とか意識のありようを、その人物の内側からぼんやり体験できるので、そういう点では小説形式でもいいのかもしれない・・・。

 

 ただ、主人公や、その恋人の感情とか心理が、情報としては伝わって来ても、体感としては伝わってこない。

出て来る人々の体温はあまり感じられない。

 なので、ドキドキしたり感動したりとか、心動かされることは全然なく、終始冷静に読めてしまったので、そこらへんは物足りなかった。

 

古市さんと共通しているのは情報量が少ない?

 情報量の少なさは、話題になっていた古市典寿さんの「平成くん、さようなら」と似ているなあと思ってしまったところも。

 情報量というと・・・

視覚、聴覚、嗅覚とか、そういう五感による刺激って、データ容量にしたら、とても多いというのを聞いた。

でも考察内容とかはテキストデータですむので、五感に比べて情報量は少ない。

 

で、古市作品も、上田岳弘さんの「ニムロッド」も、後者の、テキストデータで住んでしまうような、学問的、あるいはちょっと哲学的な考察、いわゆる純粋な情報としての文章の割合がほとんど。

 

 聴覚や嗅覚など、五感を楽しませてくれるような、感覚が匂い立ってくるような文章は全然なかったのが残念だった。

 例えば村上春樹なんかには、それがある。詩的、といってもいいのかもしれないが、身体感覚として、世界観を立ち上げてくれるところがある。

 思弁に収まらない、世界の全体性というか・・・

 それを味わうのが、文学の一つの醍醐味ではあると思うので、それがなかったために、そこまで没頭して感動はできなかったというのが、読んでみた本音です・・・。

 社会現象は描かれているから、後世からしたら、時代的な資料としては役立ちそうだけど、それはまた別の話だのうー、ばあさんや。

 

ちなみに同時受賞の町田良平さんの作品の感想もアリ。

2019年の芥川賞受賞作はこちらでレビューしてます!

 

tyoiniji.hateblo.jp

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